沖縄県には、本土では見かけない独特の食文化があるというのはよく言われています。沖縄では昔から小麦粉文化が根づいており、一般的にはあまり知られていませんが、小麦も生産されていました。海外の食文化の影響を受けていたこともあり、小麦粉を使ったお料理やお菓子がたくさんあります。今回はそんなお話!
琉球王国時代から小麦粉系ご当地グルメがたくさん!
沖縄は1429年から1879年まで約450年間、琉球王国という王朝で、日本をはじめ東南アジア諸国との交易や外交を行っていました。そのころに中国から伝わったレシピを元に生まれた料理は多く、伝統的な琉球菓子には小麦粉を使ったものが多数あります。
サーターアンダーギー
お土産として有名な「ちんすこう」は小麦粉、砂糖、ラードなどから作りますし、「サーターアンダギー」は「サーター(砂糖)」+「アンダ(油)」+「アギ(揚げ)」という意味で、揚げドーナツのようなもの。また、「こんぺん(くんぺん)」と呼ばれるお菓子は、小麦粉と砂糖の生地の中にゴマのあんが入っています。
沖縄そば
時代は移り、明治中期から後期あたりにあった「トーンチュスバ(唐人そば)」は小麦粉を使った沖縄そばのルーツとされていますし、「ヒラヤーチー(平焼き)」というお好み焼きやチヂミのようなおやつは、現在も日常的に食べられています。
ヒラヤーチー
現在の県産小麦粉には在来種やオーガニック栽培も
歴史的に見ると、琉球王朝時代は、沖縄本島北部にある伊江島での小麦の栽培がさかんだったようです。第二次世界大戦前は沖縄本島でも小麦が栽培されていましたが、時代の流れとともに徐々に衰退していきました。
その後、伊江島で自家栽培されていた在来種「江島神力(えしましんりき)」を復活させて、収穫した小麦粉を使用したお菓子などがスーパーで販売されるようになっています。
また近年になり、うるま市など、本島の生産者さんたちが立ち上げた「島麦かなさん」は、オーガニック栽培を行っているブランドで、伊江島の「江島神力」とともに、パンや沖縄そば、ビールの材料などに使われはじめています。
もともと小麦粉食文化のあるエリアですから、材料の小麦栽培から「Made in 沖縄」にこだわった食品や料理が生まれるのは嬉しいですね。
沖縄では超メジャー!「ジャーマンケーキ」はドイツのケーキ?
さて、沖縄県では、戦後のアメリカ軍統治下時代に、さまざまな「食」が流入しました。そのため、缶詰のコンビーフやランチョンミートを使った料理、タコスやステーキがいたるところで食べられる大衆文化が根づいています。パンやお菓子も県内で作られるようになり、小さなお店もたくさんありました。
本土ではあまり知られていないスイーツのひとつが「ジャーマンケーキ」ではないでしょうか。
チョコレートスポンジの間にはバタークリーム、上にはココナッツフィリングがのったケーキです。県内の洋菓子店では当たり前に並んでいて、知らない人はいないくらい定番なのですが、沖縄を出るとほぼ知られていません。
チョコレートケーキですし、その名からドイツ(ジャーマン)のケーキなのかと思いませんか?でもココナッツとジャーマン(ドイツ)が結びつかない……。
実は、このケーキはアメリカ生まれ。最初に作ったのが、サミュエル・ジャーマン(Samuel German)さんだったことからそう名づけられたそうです。当時の新聞に投稿されたレシピで、瞬く間に全米に広がったといいます。アメリカでは、毎年6月11日が「ジャーマンケーキの日」とされるほど、浸透しているスイーツなのでした。
沖縄でジャーマンケーキが広がった理由とは……
1956年、宜野湾市で開業した一軒の小さな「マチヤグヮー(雑貨店)」がありました。アメリカでいうグローサリーストア (grocery store)です。米軍基地で働いていた青年が、アメリカの豊かな食を日本にも届けたいという想いをのせて、はじめたお店でした。元ベーカリー職人のアメリカ兵を雇って、パンやケーキのレシピを学び、製造販売もはじめたそうです。その中にジャーマンケーキがありました。
海を越えて伝わったレシピは沖縄で人気となり、現在ジャーマンケーキはさまざまなお店で作られています。
考えてみれば、南国イメージの沖縄にココナッツフレーバーのチョコレートケーキは、なんだか相性がいい気がしますよね!
その味はいかに?いつ食べる?
お店によってスポンジ、バタークリーム、ココナッツフィリングの味わいなどが異なります。しかし共通しているのは、口に運ぶとシャリシャリとしたココナッツの食感。これがちょっとクセになる、エキゾチックな味わいなのでした。チョコスポンジとココナッツが混ざり合うと、「ああ、ジャーマンケーキだなぁ」と思うのです。
ホールケーキが人気(写真提供:株式会社ジミー)
昔から、お盆や年末年始、冠婚葬祭やお誕生日などがあると、親戚や友人など、大人数で集まる機会の多い沖縄の人たちには、ホールケーキも人気です。カットサービスを行っているお店もありました。
進学や就職で県外に出て初めて、「ジャーマンケーキが沖縄にしかない」と気づいて、送ってもらったという人もいるそうです。
沖縄の歴史と風土にマッチして、長く愛されているジャーマンケーキ。
現在も手軽に食べられるスイーツとして、スーパー、コンビニなどのお菓子コーナーでいろんなものが売られています。お仕事や観光で沖縄に行く人でも購入しやすいと思いますので、一度あのシャリシャリチョコレートケーキを食べてみてください。