コラム〜と麦

他分野で活躍する各業界のエキスパートが其々の目線で麦を語ります。

ワインのお供・ピザとパスタの地域性…そして肉まんへ

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奥野 努 ソムリエ
子供も大人も大好きな小麦を使った料理と言えば、ピザとパスタ。
ワインとの関係も非常に深い料理です。
ご存じの通り、ピザもパスタもイタリアの料理ですが、日本でも国民食と言える程良く食べられ、お店も沢山あります。
和風パスタや照り焼きチキンピザなど日本独自の食べ方がある事を考えると、
いかに日本で愛され、食文化として発展しているのがわかります。
でも意外と本場イタリアでのピザとパスタの地域性について考える事は無いですよね?
何となくナポリピザはナポリで作られているんだろうなぁ…と言う程度。
地域の特産の食材を使っている事は想像つきますが、そこにどんな意味があるかを知ると、これからピザとパスタの味わい方も変わるかもしれません。
もちろん、ワインとの合わせ方のヒントにもなりますよ。
今回はそんなピザとパスタの地域性についてのお話から始まりますが、
それだけではただのソムリエの話なので、最後は肉まんの話まで繋がります。

南北に長い土地と多様な歴史のイタリアの地域性

北はアルプスチロル地方から南はアフリカ近くまで、1300㎞近く南北に伸びているイタリアには、アルプス気候、大陸性気候、地中海性気候と様々な気候帯と地形があります。気候帯と地形が違えば、育つ動植物が違うので、もちろん料理も地域で違います。
また、イタリアは1861年に統一されるまで、いくつもの国家に分かれていたので、食文化そのものも地域によって違っていました。
まぁ、大雑把にいうと、気候、地形、歴史的背景等で、北と南の食文化は想像以上に違うと言う事です。

北部のピザとパスタ

イタリア北部は寒い地域なので、バターやチーズ、羊肉や牛肉を多く使い、濃厚な料理が多いのが特徴。
北部のピザは、ミラノ風ピザが代表的で、イタリアで一番薄くカリカリした食感で、具材はキノコなどの山の幸が多く使われます。
パスタは軟質小麦で卵を練りこんだ手打ちパスタが主流で、モチッとした麺を濃厚なソースに絡めます。

南部のピザとパスタ

南部は温暖な気候なので、オリーブやトマト、バジルを使った料理が多く、私達が想像するイタリア料理のイメージに近いと思います。
南部のピザはナポリピザが代表的で、マルゲリータのように、モチモチした生地にシンプルなソースと具材が使われます。
パスタはコシの強い硬質小麦を水で練りこんだ乾麺が主流で、多種多様の乾麺パスタが作られています。

同じ小麦でも使われ方が違う…それはワインも

北部と南部で料理に使われる食材が違うのはわかりますが、同じパスタとピザでも小麦の使われ方が違うのが興味深いですね。
実はこれは、ワインにも言える事です。
同じブドウを原料にしていても、北部のワインと南部のワインは違う飲み物と思えるほど味わいが違います。
北部のワインは適度な酸味と複雑味がある味、南部のワインは果実味が強くシンプルな味になる事が多く、その地域の料理と合わせやすくなっています。
歴史上イタリアのワインは、ヨーロッパに初めてワイン用のブドウが入ってきた地域として、独自の発展を遂げてきた国で、それぞれの地域が違う国のと言っても良いほど、個性的なワインが多い所が魅力です。
「地域の料理と地域の飲み物で合わせる」はイタリアに限った話ではないので、身近な料理と飲み物で試してみて下さい。

実は肉まんにも同じことが言えるらしい…

私は大学生の時、旅行ガイドブックの編集アルバイトをしていました。
初めて任せられた仕事が、横浜中華街の肉まんリストを作るための、中華街中の肉まんを全て買ってくる事。
クリスマスイブの京浜東北線に、約100個の肉まんを持ち込み、車内を肉まん臭くして白い目で見られた経験は、今となっては良い思い出です…。
全ての肉まんを計測して、試食して、肉まんデータベースを作り、なんだかんだ1ヶ月近く、中華街を取材していました。

その時にある肉まん製造工場の人が、「北京式肉まん」と「広東式肉まん」があると教えてくれました。
北京式は自然酵母で発酵させてモチッとした生地に塩味が効いた餡の肉まんで、広東式はイースト菌を使ってふっくらした生地に少し甘味のある餡の肉まん、との事。
確かに中華街の中でも、北京料理のお店の肉まんのいくつかは北京式の肉まんでした。
これはイタリアのピザとパスタと同じ事ですね。
ちなみに日本で食べられるふっくら肉まんのほとんどが広東式で、発祥は「新宿中村屋」だそうです。

同じ食べ物を作るのに小麦の使い方が違う…

小麦の奥深さを感じずにはいられません。
ちなみに肉まんとワイン…あまり合わなそうに思われますがそんな事はありません!
料理とワインの合わせ方のコツは料理の個性にワインの個性を合わせる事です。
ふっくらした生地に野菜の甘味と豚肉の旨味の詰まっている肉まんには、果実味の豊富で旨味を感じるワインが良く合います。
例えばカリフォルニアのシャルドネなど、コクのある白ワインでも良いですし、スペインのスパークリングワイン・カヴァならお互いの旨味の相乗効果で、最高の組み合わせになります。
「広東式肉まんと、スペインのワインか…」と不思議な気持ちになるかもしれませんが、是非お試しください。

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