日本では、弥生時代から畑で麦が栽培されており、当時の遺跡の中から土器に付着した大麦が見つかっているそうです。そんな2000年もの歴史がある作物ですから、その地域ごとに根付いている『ご当地グルメ』に小麦粉が使われているのも納得ですよね。
群馬県は古くから小麦粉王国
「小麦粉を使ったご当地グルメ」で真っ先に思い浮かんだのが群馬県。
群馬県は、日本有数の小麦粉地帯。日照時間が長く、からっ風が吹く乾燥した気候と水はけのよい土壌で、小麦粉の栽培に向いています。現在も米の裏作として小麦が栽培されており、収穫量は東日本エリアで第1位(北海道を除く)。近年は、群馬県で育成された2品種、麺に最適な『きぬの波』や、お菓子などに使用される『さとのそら』の栽培、パン向きの『ゆめかおり』なども生産されています。また、小麦粉の消費量は全国6位(総務省家計調査)で、県内にいろんな粉モンご当地グルメがあります。
群馬の粉モンといえば……
昔から、うどんやおっきりこみ(すいとん)、小麦粉の団子やまんじゅうなどがよく食され、近年は独自のパンやパスタ文化もあります。
その中のひとつが『伊勢崎もんじゃ』。……群馬なのに?もんじゃ?と思いますよね。一般的に『もんじゃ焼き』というと、東京の下町、月島などが有名。明太子や餅、チーズなどが入って、具沢山で美味しいですよね。しかしそれとは様子が違います。
いちごシロップ入りの伊勢崎もんじゃとはどんなもの?
伊勢崎市の『もんじゃ』は、駄菓子屋さんにあるもの。つまり、子どもたちがお小遣いで食べます。安価なため具は少なく、基本的には、小麦粉と水(出汁)、ウスターソースがベース。そこに、キャベツ、切りイカ、桜エビ、天かす、青海苔などを混ぜて作ります。ときにはベビースターラーメンが入ることも。
そしてなにより衝撃的なのは、かき氷に使う『いちごシロップ』が入るのです。そう、あの赤いやつ!
■アマ=いちごシロップ入り
■カラ=カレー粉入り
■アマカラ=両方入り
というのが標準的なラインナップ。どれを選ぶかはお好みです。私の個人的な好みでいうならば、『アマカラ』は大人にもおすすめです。
土手を作らない焼き方が伊勢崎スタイル!
月島のもんじゃ焼きとは焼き方も違います。一般的には、具材で土手を作り、中に汁を流し込みますが、伊勢崎では土手は作りません。少しずつ焼きながら食べる『ちょこちょこ焼き』や、鉄板に全部を流して『一気焼き』する子も。つまり難しいルールはなし。……とはいえ、子どもたち数人が一緒に焼くので、スペースを譲り合いながら。こういうところでコミュニケーション能力を培っていくんでしょうね。
現在は少ないですが、鉄板の下に七輪を置いて加熱していました。そのため均一に熱が回らず、上手に焼くには少々テクニックが必要。しかも土手を作らないので、一気焼きすると鉄板に汁が流れ出ます。それを利用して巨大オコゲを作り、「おばちゃん、見てみて~」と大作を自慢してくれる子もいるとか。これは月島では不可能な技でしょうね。
もんじゃは東京生まれ!なのになぜ伊勢崎で?
さて、もんじゃ焼きは東京の下町生まれ。それなのに、なぜ伊勢崎市で食べられているのでしょう?
歴史を紐解くと、もんじゃ焼きは江戸時代の屋台から生まれました。銅板にゆるい生地で文字を書いて焼いていたので『文字焼き(もじやき)』と呼ばれました。当時は人口増加で子どもの数も多く、子ども向けの屋台もあったようです。文献によると、味付けは「うどん粉に蜜を入れたもの」だったようです。その後、駄菓子屋さんが扱うようになったとか。そう考えると、現在の伊勢崎もんじゃと近しい気がしますよね。
伊勢崎に伝わった経緯ははっきりしませんが、明治43年(1910年)に全線開通した東武伊勢崎線が関係しているといわれています。電車で行き来がしやすくなり、「東京のもんじゃ焼きが伊勢崎に伝わったのでは」という説が有力ですが、地元では、『伊勢崎発祥説』もあると聞いています。
いちごシロップはなぜ入れられたのか
一方、いちごシロップの『アマ』の発祥は、伊勢崎駅の南側にあった、伝説の「大熊もんじゃ」というお店。明治生まれの大熊春さんという人が、昭和33年(1955年)頃に始めた駄菓子屋さんです。平成6年(1994年)頃まで現役だったそうなので、明治、大正、昭和、平成を生きた女性ですね。
あるとき、子どもに「甘いのが食べたい」とせがまれ、かき氷用のいちごシロップを混ぜて出したそうです。それが「美味しい!」と評判になり、もんじゃの味付けとして定番になったのです。
『赤くて甘い味付け』でいうと、ある店主の話では、今から約50年前までは「赤い色をした駄菓子のチョコレートを溶かして混ぜた」ものがあったそうです。その後、そのチョコレートが販売中止になって、作られなくなったという話でしたが、いずれにせよ、駄菓子屋さんならではのエピソードですね。
全然映えない!でも美味しい伊勢崎もんじゃ
そんなわけで、写真を撮っても、残念ながら地味で映えない……(笑)。謎の茶色い食べ物なんですよ。でもこれが意外と後引く美味しさ。
私のおすすめ『アマカラ』は、カレー粉のスパイシーさが食欲をそそりながら、いちごシロップがイイ仕事してくれて、全体的に奥深いコクが出る気がします。これを、ちまちま焼いては食べて……を繰り返していると、なんだか永遠に食べていられるんじゃないかと思います。
テイクアウトにして、家のホットプレートで焼きながらビール…という大人も少なくないそうです。その気持ちわかるなぁ。
もし自宅でイチから作る場合は、必ず中力粉を使ってください。駄菓子屋さんに材料を伺ったとき、「昔からうどん粉使うのよ!」とおっしゃっていました。昔はどの家庭でも、地粉でうどんやおっきりこみを作っていたので、どこにでもある食材。群馬県の小麦粉文化から生まれたのがよくわかります。
最近は『伊勢崎もんじゃ』を地域活性化に活用しようという動きもあり、駄菓子屋以外の飲食店でも提供されています。もし「昔ながらの伊勢崎もんじゃを食べたい」と駄菓子屋さんを訪れる際は、お店のルールを守って、くれぐれも子どもたちを優先してあげてくださいね!