コラム〜と麦

他分野で活躍する各業界のエキスパートが其々の目線で麦を語ります。

ワインのライバル、ビールを倒すためには…【麦の存在】

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奥野 努 ソムリエ

ワインと麦関係が無さそうで、実はとても深い関係があります。

ワインを生産する過程では麦との関係性はありませんが、すぐに思いつくのが小麦を原料とする食品との関係。
パン、パスタ、ピザなどワインのお供になる重要な食品です。
そして、もう一つが大麦から作られるビールとの関係。
今回はそのビールとワインについてのお話です。

ワインの販売を仕事をしていると、必ず意識するのがビールの存在です。
特に夏。
誰もが認めるビールが一番美味しい時期です。
王様の名前の付いた特級畑の白ワインでも、王女が愛したプレステージュシャンパーニュでも、
暑い夏のカラカラの喉に流し込む一杯のビールに勝つ事は出来ません。

要するに、皆さんビールばかり飲むので、ワインの売り上げが伸びません。

いちビール愛好家として、ビールを悪者にはできませんが、
お客さんに「夏はビールしか飲む気がしないよー」と何度何度も言われると、
ワイン屋として「ビールが無ければ」と思った事は1度や2度ではありません。
(基本的に、ビールも含め他のお酒もあってワインがあると思っていますよ。悪しからず)
そこで、ワイン屋として「ビールを倒すためにはどうしたら良いか()を考えてみました。

なぜビールを飲むのか(敵を知る)

ビールの美味しさは、人それぞれあるかもしれませんが、
一般的に言われているのが、
①クリーミーな泡、②シュワッとした炭酸ガス、③ホップの苦味と香り、④麦芽(発芽した麦)の香りと旨味、だと思われます。
主な原料の水、麦芽、ホップの違い、作り方の違いでビールの違いがあるようですね。
キメの細かい泡が一気に舌から喉に抜けた後、香ばしさがフワッと上がる感覚はたまりません。
また、色々な料理(特に枝豆、餃子、唐揚げなどおつまみの定番)との相性も良いし、手軽に飲める(価格、量)、ここも重要なポイントですね。

ワインにビールの代わりが出来るのか?(己を知る)

あくまでビールはビールで、ワインはワインなので、「代わり」にはなりませんが、ここはあえて考えてみます。
ビール代わりとして考えられるのはスパークリングワインです。
スパークリングワインの美味しさのポイントはシュワッとした泡の強さと滑らかさ、果実味、酸味、ミネラル感、香り、旨味などがあげられます。
美味しさの要素はビールよりも多く、そして複雑に思われますが、ビール特有のクリーミーな泡、心地良い苦味、香ばしさはスパークリングワインにはあまりありません。

シャンパーニュの泡はキメが細かいのですが、グラスから溢れるようなホイップしたような泡は出来ません。
苦味や香ばしさをストレートに感じるスパーリングワインもあまり無いように思われます。
ワインはどうしても複雑な香味になる事が多いので、
ビールの「うまい!」と一言で言い表せるような、一点突破的の魅力的な香味にかなわないのかもしれませんね。
料理との相性については、スパーリングワインもあらゆる料理との相性が良いのですが、
「ビールに枝豆!」ほどすぐに思いつく組み合わせはあまり無いかもしれません。(実際には沢山ありますよ!)

ワインはビールよりも味の凹凸が大きいので、料理と合う場合と合わない場合の差が大きいので、難しく思われていいる所もあるでしょう。

最近は小さい瓶や、缶のワインもありますが、ワインは750㎖の瓶が一般的なので、「ちょっとだけ飲む!」という楽しみ方も中々できません。
ましてはスパーリングワインは一度開けたら飲み切らないとならない事が多いので、気軽に楽しむ事が少し難しくなります。

香味、料理との相性、楽しみやすさワインがビールの代わりになるのは中々難しそうですね。
今後も、飲み屋さんでの最初の一言が「とりあえず生ビール!」から「とりあえずシャンパーニュ!」になったり、ビルの屋上の夏の恒例「ビアガーデン」が「ワインガーデン」にとって代わるなる可能性は低そうです。

ビールを敵に回してはいけない(結論)

さんざん、ビールをワインのライバルのような言い方をしてきましたが、

実際、平成28年のビールの消費は、酒類全体の構成率31.3%(発泡酒を含めると10%)で、ワインは4.3%。(酒レポート 平成303国税庁)
以前より、その差が縮んでいるとえ、まだまだ足元にも及びません。

ビールは美味しい、ワインも美味しい、それぞれの美味しさを楽しめば良いと思います。
世界最古のお酒は、ワインとビールと言われています。(ワインの方が古いとも言われていますが定かではありません)
共に歴史の流れの中で進歩をして、今の美味しさになりました。

ブドウは温暖な地域で作られるのでワインの生産地はある程度限られるのに対して、
低温にも乾燥にも強い大麦で作られるビールは広い範囲で作られようになりました。
ワインが生産できない地域では、ビールが美味しい!
ワインが美味しい地域でも、ビールが美味しい!

ビールさえ無ければワインが売れるのに!
と思ってしまう事もありましたが、
ビールがあったからこそワインの美味しさも進歩したでしょうし、
ビールの原料の麦があるからこそ、ワインと一緒にパスタやピザを楽しめるわ訳です。
ワインとビール、これからも仲良くしなければいけませんね。

さっ、ビールでも飲もうかな。

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