国産麦・大豆取組事例レポートin島根県

小麦の県内自給率100%の目標を目指しプロジェクトチームを発足

島根県における県産小麦の利用拡大を目指し、2023年に立ち上がった「出雲の国小麦プロジェクト推進協議会」。生産者、製粉、流通、実需者などが一体となり、地域に根ざした小麦のサプライチェーン構築に取り組んでいる。協議会を発足した経緯、会員企業の想い、今後の展望などをプロジェクトリーダーであり、カンドーファーム代表取締役の田尻一輝さんをはじめ、関係者のみなさんに話を伺った。

生産資材供給企業から販売事業者までワンチームで取り組む

2026年2月 出雲の国小麦プロジェクト第4回シンポジウム参加者のみなさん

補助金を活用してロゴ開発や
イベント出展を実現

協議会の出発点は、数年前の出来事がきっかけでした。天候不順によって小麦の品質低下が起こり、既存取引が途切れかけたことがありました。そんな時、旭製粉さんが継続した原料の買い取りを申し出てくれたのです。その経験を経て、単年度の品質変動で国産小麦を切り捨てるのではなく、生産・製粉・流通の課題を共有して継続的に支え合う、国産小麦普及のための新たな取り組みをしていこうと話し合ったことがきっかけです。

今まで生産者として、「小麦がどこでどう使われているのかが見えない」という現状に、長年違和感を抱いていました。お米なら消費者の方々はブランドや産地を指名して買っていただける。でも小麦は米と異なり加工工程が多く、生産者と消費者の距離が遠いのです。他方、多くの事業者が関わる余地があり、地域振興の原料として大きな可能性を秘めていると思いました。だからこそ川上から川下までをつなぎ、「選ばれる原料」としての小麦を目指したいと考えたのです。

プロジェクトのロゴ

2023年に生産資材供給者、生産者、物流事業者、製粉企業、卸企業、加工・販売者が参加する協議会を発足。島根県産小麦の利用促進を通じて、地域農業と食品産業の持続性を高めることを目的にしました。協議会自体が収益事業を行うのではなく、参画企業それぞれの本業が発展するための“共通基盤”をつくることを重視しています。小麦という原料を軸に事業理念が重なり合う企業同士が連携することで、相乗効果を生み出すことを目指したのです。具体的な取り組みとしては、品質評価会を実施し、生産者、製粉会社、実需者が同じテーブルにつき、製品化した商品評価を共有。原料品質、製粉方法、使い方まで含めたフィードバックを行っています。今後は、実需者の裾野拡大と消費者認知の向上が鍵。ロゴ整備やプロモーション、新商品開発を通じ、「店頭で日常的に選ばれる島根県産小麦」を定着させることが当面の目標です。でもそこに費用面という問題があり、一部取り組みにストップをかけざるを得ない状況でした。そんなとき、国の補助事業「麦・大豆利用拡大事業に係る新商品開発等事業」の制度を知り、活用することで、ロゴ開発や展示会に出展ができることとなりました。

出雲の国小麦プロジェクト会長
カンドーファーム株式会社代表取締役
田尻 一輝さん

今後の課題は、品質の安定と生産量の確保です。島根特有の気候条件により、年毎の変動が大きく、実需者が安心して使い続けるには、ノウハウの蓄積と生産者拡大が不可欠です。国産小麦は「地元だから使う」のではなく、「品質が良いから選ばれる」存在でなければならないという認識があり、こだわっていきたいと考えています。国産小麦を“特別な取り組み”ではなく、持続可能な事業として根付かせるためにみんなで頑張っていきます。

出雲の国小麦プロジェクトメンバー構成図

県産小麦自給率100%を目指して生産者拡大と品質向上

プロジェクトに参画するカンドーファームをはじめ生産者は、県内で水稲と麦を中心に農業を展開。国産小麦生産に取り組む背景には、農地維持と地域農業の将来を見据えた強い想いがある。

写真右から、(株)藤若農産 代表取締役 藤若将浩さん、田尻さん、農事組合法人おきす 代表理事 森脇康博さん

小麦は農地を守る手段の
ひとつとなる作物

弊社では、水稲約70ha、麦約32haを栽培しています。水田を基盤としながら、転作作物として小麦を組み込むことで、経営の安定化と農地の有効活用を図っています。
主に栽培している小麦は、「はるみずき」や「ふくほのか」といった品種で、これらは倒伏しにくく収穫期が比較的早い特性があるので、山陰の気候条件にも適応しやすいのです。品種改良の進展によって、かつては「島根には向かない」と言われた小麦栽培の可能性が、近年さらに広がっていると感じています。

私は小麦を単なる作物ではなく、「農地を守る手段」としても捉えています。代々受け継がれてきた農地を守るためにも、改良や新しい作物に積極的に挑戦し、次世代へ受け継ぎたいと考えています。老朽化した水路インフラのため水稲栽培が難しい圃場でも、小麦であれば活用できるケースは多いのです。耕作放棄地を生まないための選択肢として、この地域で小麦は重要な役割を果たしていると言えます。
今後は安定生産のための技術確立と、生産者拡大が課題です。協議会を通じて、実需者からのフィードバックを栽培に反映し、「使われる小麦」を意識した生産を追い求めていきます。国産小麦を事業として成立させることが、結果として地域農業の持続性につながります。さらに、現在県産小麦自給率1%という現状を打破し、県産小麦100%を目指していきます。


プロジェクトメンバー(生産者)

藤若 将浩さん
近年、農業従事者の高齢化が進み、農地のすべてを米で守るのは難しい。小麦栽培は、ほぼ初めてなので不安も多かったですが、売り先まで見えるプロジェクトのおかげで勇気が持てました。
森脇 康博さん
以前小麦に取り組みましたが、ロット数が少なく地粉にできないと諦めていました。プロジェクトには製粉会社も販売先もあり、顔の見えるメンバーと取り組めることが励みになりますね。

島根県産小麦の特徴を生かした小麦粉づくりを心がける

島根県から離れた奈良県に本社がある旭製粉株式会社。島根で地元小麦を真摯に作り続けている生産者に心打たれ、オリジナル小麦粉作りに協力。島根県産小麦「出雲阿麦(いずものおむぎ)」への想いを伺った。

旭製粉株式会社
代表取締役社長
西田 定さん

強みを生かした製粉技術で
プロジェクトに貢献

私が「出雲の国小麦プロジェクト推進協議会」に参画したのは、田尻さんから小麦の相談を受けたことがきっかけでした。最初から大きな構想があったわけではありません。ただ、目の前にある声や困りごとに応えたい。その延長線上に、このプロジェクトがあったという感覚です。
正直に言えば私は長い間、製粉という仕事に意義を見出せずにいました。輸入麦中心の時代、大手との競争、価格下落。製粉業は厳しい産業だと身をもって感じてきました。しかしこの取り組みを通じて、「製粉工場は絶対に必要な存在だ」という当たり前の事実に、改めて気づかされたのです。小麦は粉にならなければ食にならない、その中間に立つ役割こそが、私たちの価値なのだと。そこでプロジェクトに参画し、小ロットでも味わい良く仕上げるうちの強みである小麦の製粉技術を活かして、島根の「はるみずき」と「ふくほのか」を使った「出雲阿麦」を開発しました。プロジェクトメンバーのみなさんには、「出雲阿麦」を使って商品開発をしてもらっています。
プロジェクトに参加して良かった点は、川上から川下までが一気につながったことです。生産者、流通、小売、加工、販売、それぞれが専門性を持ち寄り、同じ目標に向かって議論できる場は、これまでの業界には、なかなかありませんでした。私は「徹底的に黒子でいこう」と決めていて、主役はあくまで生産者と使い手です。

その間をつなぎ、全体がうまく回るよう支えることが、製粉会社の役割だと思っています。この経験は、自社にも大きな影響を与えました。私は「製粉ルネッサンス」という言葉を掲げ、製粉事業をもう一度やり直そうと決めました。国産小麦に適した工程設計や、小ロット対応、地域ごとの個性を活かす製粉。その方向性がはっきり見えてきたのです。

今後は急拡大ではないかもしれませんが、毎年少しずつ確実に、国産小麦の利用を広げていくことが大切だと考えています。最後に評価するのは消費者。おいしいと感じてもらう、その積み重ねこそが国産小麦の未来を支えていきます。私はこれからも、産地と食の現場を結ぶ“真ん中”に立ち続けたいと思っています。

写真左から、出雲阿麦 赤(はるみずき)と出雲阿麦 白(ふくほのか)

安全な食を提供したいから、生産者とお客さまをつなぐかけ橋に

売り場に立ちながら、原料の向こう側にいる人の顔を思い浮かべてきた。国産小麦をめぐるこの挑戦は、食の現場と産地をつなぐ流通の立場としても大事な取り組みである、と語る錦織さんに話を聞いた。

株式会社みしまや 経営企画部 部長 錦織 俊 さん

流通の立場から食料の
安定供給に取り組みたい

今まで、米や果物を通じて顔の見える関係を構築していた田尻さんから、「出雲の国小麦プロジェクト推進協議会」の話しを聞いたことが参加のきっかけです。これは一過性の企画で終わらせるのではなく、地域にとって必要な取り組みだと感じました。ウクライナ情勢による輸入小麦の不安定化を目の当たりにし、食料を海外に依存するリスクを、流通の立場として強く意識するようになっていたことも背景にありました。

みしまやオリジナルの県産小麦粉を使ったミックス粉

協議会に参加して良かったと感じているのは、人とのつながりが大きく広がったことです。生産者、製粉会社、加工業者、飲食店など、通常の取引では出会えない方々と直接話せることは非常に貴重でした。その中から生まれたのが、県産小麦100%の「みしまやオリジナルパンケーキミックス」です。価格は決して安くありませんが、試食や対話を重ねることで、価値を理解してくださるお客様が増え、定番商品として根付き始めています。
プロジェクトに参画したことは、私だけでなく社内にも良い影響を与えました。バイヤーや店舗スタッフが小麦や農業への理解を深め、商品を「背景ごと伝える」意識が育っています。仕事は、ただ売ることではなく価値をどう伝えるか。その積み重ねが信頼につながると改めて感じました。
今後は、他社とも連携してラーメンやパンといった主食分野にも挑戦し、地域全体で県産小麦の認知を高めていきたいと考えています。一社だけでは限界があるからこそ、手を取り合い、島根の小麦を“選ばれる原料”に育てていく。その一翼を担えればと思っています。

おいしい県産小麦粉を使った商品を作って応援

プロジェクトにはさまざまな販売者の方々も参画し、それぞれの店舗で魅力ある商品を作って県産小麦粉の需要を後押ししている。その販売者の方々に「出雲阿麦」の魅力と取り組みを伺った。

ホームメイドメルシー
代表
中川 元美さん

素晴らしい味わいの県産小麦粉を扱えるシアワセ

「出雲阿麦」の赤(はるみずき)と白(ふくほのか)の特性を最大限活かしたパン作りをしたかったので、赤はハード系のパンに、白はパウンドケーキにと分けています。初めて作った時に、この小麦粉の持つポテンシャルの高さに驚かされました。しっとり、もちもちでおいしい!って感動を覚えました。

もちもちのパンが並ぶ

今でも、「さあ今度はどんなパンを作ろうか」と毎回楽しみです。ワクワクが止まらないですね。

カフェブラウニー
代表
石倉 暁子さん

自由度が高く扱いやすい県産小麦粉に首ったけ

「出雲阿麦」に初めて出合ったときに、ふくほのかは県産小麦で作った小麦粉なのに、真っ白で粒子が細かいことに驚かされ、はるみずきは水と混ぜてもするする入って保水性の高さが際立ちました。どちらも、初めの印象通り扱いやすく、納得できる生地ができました。

人気のフロランタン

うちではベーグルやロールケーキに使っています。最近では、それらの小麦粉をブレンドした新商品づくりを楽しんでいます。

Bake House HARVEST
代表
田淵 規之さん

地元産の小麦や食材を使ったパン作りに取り組む

県産の小麦粉があると聞き、地元の生産者さんを応援したいという気持ちから「出雲阿麦」を使ったパンを作りたいと思いました。せっかくなのでブレンドでなく「出雲阿麦」100%で作ろうと思い、食パン開発から取り組みました。今では、うちの商品はほぼすべて県産小麦を使っています。

県産小麦の食パン

消費者の方たちと接するのは私たち販売者ですから、その良さをしっかり伝えていきます。

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