国産麦取組事例レポートin愛知県

たゆまぬ商品開発と確かな技術で 大麦食品の可能性を拡大

昭和21年の創業以来、大麦一筋に75年。豊橋糧食工業株式会社では、代表的な商品「麦ごはん」など国産大麦、もち麦食品の製造販売を幅広く手掛けている。なかなか大麦の消費が伸びない中、当協会の「外食産業等と連携した農産物の需要拡大等事業の新商品開発等事業(麦類)」(以下「補助事業」という。)を活用して、様々な新商品の開発に取り組んでいる。4代目となる伴野会長に商品開発にかける思いと精麦会社としてのこれからを聞いた。
また、豊橋糧食工業株式会社の販売の良きパートナーである道の駅「もっくる新城」の田原駅長に豊橋糧食工業株式会社のこだわりを聞いた。

大麦の素晴らしさを知り「大麦の伝道師」を志す

豊橋糧食工業株式会社 代表取締役会長 伴野 乙彦 氏

豊橋糧食工業株式会社
代表取締役会長
伴野 乙彦 氏

家業である精麦会社を継いでまず知ったのは、大麦の加工の難しさでした。殻が固く中が柔らかい大麦を割らないようにいかに加工するか、そこに全力を注いでいました。その頃は大麦の素晴らしい特性には、全く気付いていませんでした。
ある時、大麦が体に良いという話を耳にして、何がいいのか調べてみました。

その時、大麦は食物繊維の宝庫であり、腸内環境を整え生活習慣病にも良いことを知りました。さらに書籍などで調べていくと、その昔5000年くらい前のメソポタミアでは大麦は貨幣として機能し、「世界最古の貨幣」と呼ばれていることを知りました。これには驚きました。

自分たちが商売で扱っている大麦はこんなに素晴らしく由緒ある穀物なんだと認識させられました。まさに大麦との新たな出会いでした。と同時に、この大麦の素晴らしさを様々な商品を通して、一人でも多くの人に伝えたいとの思いから、「大麦の伝道師を志す」ことを弊社の経営理念に掲げました。

ビールの美味しさに閃いた
発芽押麦への挑戦

弊社では国産の大麦にこだわり、押麦、白麦、米粒麦、もち麦など様々な「麦ごはん」を開発、販売してきました。さらに新たな商品を模索していた時に閃くものがありました。ビールもウイスキーも大麦を発芽させたものを原料としています。そこからあんなに美味しく、味わい深いものができるのであれば、発芽した大麦を乾燥させて押麦にすれば美味しいものができるはずだと。「発芽した大麦を押麦に」という発想は良かったのですが、技術的には相当難しいものでした。発芽している大麦の中はさらに柔らかくなり、従来の方法では砕けてしまい加工ができません。発芽大麦を粒として残したまま製品にするために、いろんな加工方法を試行錯誤しました。

そして4年の歳月をかけ平成18年にやっと、日本で初めての「発芽押麦」の製品化が実現しました。その年、この開発は経済産業省の「新連携」認定事業となり、平成22年には特許を取得しました。

ヘルシーからビューティへ。
大麦のチカラを世界へ。

「発芽押麦」など弊社独自の大麦加工食品を開発する中で、大麦の素晴らしさを「麦ごはん」以外のカタチで伝えられないか、商品として提供できないかと考えたのがシリアルでした。しかし、大企業とは違い新商品を開発するのはなかなか大変でしたが、補助事業を活用することで思い切った商品開発に取り組め、大麦シリアルを商品化することができました。

さらに、ある展示会でアマニの美味しさと健康パワーを知り、弊社でもアマニを使った商品を開発しようと思い立ち、様々な商品設計、配合などを繰り返して、「体の中から美しくする」をコンセプトに商品化したのが「インナービューティ&メンタルアスリートバー」です。大麦シリアルを手軽に食べ易くするために、形態もあえてバータイプにこだわりました。

この商品は新たなチャレンジとしてパリの展示会で発表しましたが、その際にも協会の補助事業を活用させていただきました。動物性素材を使用せず、砂糖、小麦、食品添加物も不使用、天然素材の美味しさにこだわった本商品は、グルテンフリー、ヴィーガンの意識の高いパリで好評価を受けました。

その後、香港での展示会では「体の中から美しくする」というコンセプトに多くの共感をいただきました。アジア地域における「美」への関心の強さ、深さを見ていると、この商品の大きな可能性を感じました。また、海外には大麦の皮をむく技術がないので、シリアルなどの大麦加工食品は海外市場に広く受け入れられると強い手応えも感じています。

さらなる大麦の可能性を
求めて

弊社の商品を購入されたお客様からは、「こんな商品を探していた」、「国産大麦100%で添加物もなく安心して食べられる」、「美味しくて体調もいい」など好意的な意見が多く、リピーターも着実に増えてはいますが、課題は販路の拡大です。何よりネックとなっているのが、商品の良さを説明しなければなかなか伝わらないことです。

パッケージにも色々と工夫をしていますが、並べているだけでは売れていきません。それを再認識させてくれたのが、昨年商品化したお好み焼きミックス粉でした。富山県産の六条大麦ファイバースノウを使用し、小麦不使用のソースを付けた小麦グルテンフリーにこだわったセットにして商品化しました。これがネットを中心に爆発的な売れ行きでした。国産大麦使用、小麦グルテンフリーというセールスポイントに加えてお好み焼き粉という説明の要らない分かり易い商品だったことで、お客様の評価を得られ販売増に繋がりました。

大麦商品の良さがちゃんと伝われば売れるという確信を得られた経験でもありました。
今後も、農林水産省をはじめ、全国米麦改良協会、各地のJA、全麦連、ジェトロなど多方面の協力を仰ぎながら、大麦の素晴らしさを国内はもとより、広く海外へも伝えていくことで大麦加工食品の普及拡大とさらには自給率の向上を図れればと思います。

大麦サイロ、会社事務室前にて

企業の意思がしっかり伝わる商品開発に期待

道の駅「もっくる新城」駅長
田原 直 氏

当駅では愛知県の広いエリアから「いいものはいい」という方針の下、常時1500から2000アイテムの商品を販売しています。八丁味噌のお膝元ということで、発酵食文化を伝えるコーナーを設けるなど、地域の魅力を発信するとともに多くの方が楽しくお買い物の時を過ごせる道の駅を目指しています。品揃えの特徴としては、スーパーマーケットではないので、売れ筋というよりは、こだわりとか高い知見のある商品、見つけてよかったと思ってもらえる商品を置くようにしています。そういう意味では、豊橋糧食工業さんの商品には企業の意思、こだわりがしっかり反映されていて、ブレのない安定した商品だと思います。

一般の消費者の方は、大麦と小麦の違いも明確ではないと思いますが、豊橋糧食工業さんの商品は国産大麦の素晴らしさや健康食へのこだわりなどがパッケージにちゃんと説明、提案されています。これは、消費者だけでなく、売る側も助かっています。また、健康志向の食品でありながら、味も犠牲にしていない。コンセプトと企業の商品作りが、ぶれていないと感じさせられます。

当駅でも、正面から自信を持って薦められる限られた商品の一つです。だからこそ、一度手にされたお客様は、その後指名買いのリピーターとなる方が多く見受けられます。今後も大麦シリアルのような、その場ですぐ食べられる商品の展開が道の駅という場所柄、面白いかなと思います。豊橋糧食工業さんの新商品に大いに期待をしています。

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