国産麦取組事例レポートin香川県

麦穂が輝く麦畑風景を守るため
B to C市場への新規販路開拓に挑む

1888(明治21)年に、食料品の卸問屋として創業。以来135年余りに亘って、香川県善通寺市で大麦の精麦加工メーカーを営んでいる株式会社高畑精麦。年間約1,000tのはだか麦を用いた製品を販売するほか、善通寺市産「ダイシモチ」を約120t加工している。
「外食産業等と連携した農産物の需要拡大等事業の新商品開発等事業(麦類)」の制度を利用して、初の試みとなるB to Cへの市場拡大に取り組む同社。新商品開発やオンラインショップを開業して、広く販売を行う株式会社高畑精麦 代表取締役社長の高畑光宏氏に、取組内容についてインタビュー。また、高畑精麦とともに国産大麦の利用拡大に取り組む、株式会社まんでがん様、支援を行う香川県庁様から、現在の状況などについて伺った。

補助事業が新事業のチャレンジに勇気をくれた

株式会社高畑精麦 代表取締役社長 社長
高畑 光宏 氏

当社は精麦加工メーカーとして、古くは押麦の原材料を、また現在は麦みそ用の原料として、はだか麦の加工を行い、中・四国以西の地域へ業務用の販売をしています。大麦を主に扱い、米に混ぜて炊飯する食物繊維豊かな押麦の「南風麦」などを取り扱っています。
私は、香川県善通寺市で生まれ育ちましたが、幼かった頃に見た、きらきらと光り輝いていた広大な麦畑の里山風景が忘れられません。それが近年、麦畑が姿を消し、休耕田となった風景を見るのはとても寂しかったのです。昔見た麦畑の風景を取り戻したいという気持ちが、私の中で高まっていきました。くしくも世界のさまざまな場所で紛争などが起こり、日本への食糧供給が滞ってしまう事態に危機感を感じていたのです。

そんなとき、「外食産業等と連携した農産物の需要拡大等事業の新商品開発等事業(麦類)」(以下、補助事業)の制度があることを知り、すぐに申請の手続きに取り掛かりました。無事申請が通ったときには喜びも大きかったのですが、同時に、もう前に進むしかないぞ、と腹をくくることができました。

補助事業のおかげでPR会社とプロジェクトチームを発足

以前から新しい市場への販路拡大を目指していたので、補助事業の申請内容は B to Cの事業に取り組むことでした。具体的には、新市場にマッチした新商品開発を行い、自社のオンラインショップを立ち上げて販売したいと考えたのです。今までにやったことのない分野ですから、何から進めてよいかも分かりません。補助事業のおかげでPR会社さんとプロジェクトを組むことができたのが、大変助かりました。B to C用にできあがった商品は、新食麦シリーズの「はだか玄麦」と「はだか丸麦」、「はだか押麦」、それと追加開発の「ヌードグラノーラ」です。ご存知の通り香川県では、長くはだか麦の栽培に取り組んでおり、全国でも有数の産地になっています。県産のはだか麦は色味や香りが際立ち、粒ぞろいも安定して高品質なので、訴求力の高い商品展開ができると考えました。「はだか玄麦」は、麦本来の歯ごたえを活かし、硬くプチプチとした感じを楽しんでいただける商品です。一方、「はだか丸麦」は食べやすい食感を目指し、とう精度を高め、表面に軽くα化を施し、はだか麦が持つプチプチ感も体感していただこうと工夫をしました。「はだか押麦」では、高温のドライスチーム(乾燥蒸気)を用いて表面をα化。試行錯誤を重ねましたが、丁寧な加熱方法と、スピーディな加工を施すことで、食べたときのさっぱり感を感じていただけると思います。
「ヌードグラノーラ」は、一般的に食べられる甘い味付けのものでなく、ノンスイートタイプのものを開発。甘さがないためサラダやスープの具材として使ったり、自分で好みの味付けにできるようにしました。甘みがない分、麦本来のおいしさを味わっていただこうと思い、焙煎ととう精度のバランスにこだわり、従来のグラノーラとは異なる差別化を図った商品開発に成功しました。
商品の販売には、自社オンラインショップ「讃岐はだか麦本舗」を立ち上げ、ネット販売を行っています。サイト開発もPR会社さんに協力してもらい、納得のいく仕様に仕上がりました。
最近ではリピーターの方も増えて、着実に販売数は伸長しています。これを期に、さらにネットショップも充実させ、B to C市場で販売拡大をしていきたいと考えています。

品質が高く、多くの人から愛される県産麦

香川県農政水産部農業生産流通課農産グループ課長補佐
坂口 幸雄 氏

高畑精麦さんは国内産麦はもとより、香川県産「はだか麦」の実需企業として、長い間活躍をされてきました。県産麦の柱である「はだか麦・イチバンボシ」を扱う優良企業であり、香川県の麦作振興を下支えしてくれている心強い存在です。
2023年9月に、瀬戸内エリアでの麦の普及、販促を目的に、栽培から加工、販売までの連携体制を備えた地域モデルづくりを目指し、一般社団法人瀬戸内麦推進協議会が設立されました。高畑社長は、この協議会の副会長も務められており、私たちも県の担当課として参画しています。

香川県の「はだか麦」の生産量は、「イチバンボシ」をはじめ、そのほかの品種も含めて作付面積が約850ha、生産量は約2,310t(令和4年産)。これは、愛媛、大分に次いで国内第3位を誇ります。香川県では古くから「はだか麦」が栽培されており、その理由としては、自然条件、立地、生産条件の良さが挙げられます。温暖で少雨という典型的な瀬戸内海式気候の好条件のなか、昔から営まれてきた二毛作の作付けで「はだか麦」は栽培されてきました。一時期、作付面積がだいぶ減ってしまったという時期もありましたが、最近では少しずつ盛り返しの基調にあります。私たちは、麦を栽培している農家の方々の栽培管理の指導を行ったり、経営の安定化に向けた麦作振興の施策を講じたり、支援に取り組んでいます。
現在、県内で栽培される「はだか麦」では「イチバンボシ」が一番生産量の多い品種です。「イチバンボシ」は、今から約30年前に県で栽培を推奨する奨励品種となりました。これだけ長く栽培されてきた品種はなかなかなく、精麦業者さんや加工メーカーさんにとっても扱いやすい、良い品種だということが窺い知れます。
現在、県では、香川県産小麦「さぬきの夢2009」の後継品種を選定し、種子生産や収量・品質の安定化に向けた栽培技術の実証と普及に着手しています。2025(令和7)年産から、一般農家さんでの栽培をスタートし、計画的に現地における作付けの拡大・普及を目指していきます。
県では、高畑精麦さんをはじめ、実需関係の皆さまと連携し、県産麦のさらなる需要促進や消費拡大を図るとともに、麦の安定生産技術の確立を進め、生産者の収益性の向上、水田農業の維持に向けて、生産振興に取り組んでまいります。

地域の特産品「讃岐もち麦ダイシモチ」で街を活性化

株式会社まんでがん(善通寺市TMO)
チーフマネージャー
多田 亜紀 氏

私たちと高畑精麦さんとの関わりは、26年前に当時の近畿中国四国農業研究センター(現:西日本農業研究センター)で開発されたはだか麦の新品種「讃岐もち麦ダイシモチ(以下「ダイシモチ」という。)」の精麦を、お願いしたことが始まりだったと聞いています。今では、高畑社長が弊社の取締役でもあるので精麦のみにとどまらず、販路開拓についての相談や、麦に関する情報共有なども行ってもらっています。

私たち、株式会社まんでがんは、1999年(平成11)年に設立され、その後2000(平成12)年には、中心市街地における商業まちづくりを運営・管理する機関(TMO)として善通寺市から認定を受けることができ、まちづくり事業を展開してきました。社名の“まんでがん”は、香川県の方言でまるごと、全部という意味で、善通寺市のものをまるごと、全部販売する、盛り上げるという思いを込めて、この社名を付けました。この地域は、約20年前から市の中心部にシャッター通りが増え始め、1998(平成10)年には中心市街地活性化法が施行されました。この街をもう一度活気のある場所にしたいと、私たちは行政の方たちの力も借りながら、さまざまな取り組みを始めたのです。
大きな事業としては、市から観光案内の事業を請け負っていて、観光案内所を兼ねた施設では産直品の販売も行っています。市民の方は近所で日常のショッピングができ、観光の方たちはお土産も買うことができるように商品を揃えています。なかでも私たちが注力しているのが、善通寺市の特産品「ダイシモチ」を使った加工品の展開です。食べやすい茹で麦やパンケーキの粉を開発したり、カレーなども作ったりしています。最近では、ふるさと納税でも人気が出てきて、雑穀部門では常に上位にとどまることができています。「ここのもち麦を食べたら他のものが食べられなくなった」と言ってくださるリピーターの方も多く、高畑精麦さんの丁寧な精麦加工のおかげと思っています。
これからも、「ダイシモチ」の販売拡大に向けて頑張っていきたいと考えていますが、さらには、広く香川県全体の麦を多くの人たちに知ってもらうことができ、香川県産大麦にも注目が集まるように、協力していきたいと思っています。

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