国産麦取組事例レポートin福岡県

うきは産小麦の全国拡大に向けて
生産者、企業、自治体がワンチームに

地元のうきは産小麦を広めるために産地と地元食品関連企業が連携して、新商品を開発する「うきは小麦新商品開発協議会」を発足。商品開発には、地元の小学生・高校生も参加して、協議会メンバーが結束し、取り組みを行った。その後、うきは産小麦100%使用の商品をブランド化するために、「うきは小麦活性化プロジェクト」を立ち上げ、さらなる取り組みを展開している。

地元の小麦を100%使った商品をブランド化したい

うきは小麦新商品開発協議会のメンバー

うきは小麦新商品開発協議会のメンバー

うきは産小麦の輝きを
取り戻したいとチームを発足

筑後川の流域にあるこのエリアは、河川の氾濫で水害を受けてきたことで豊かな土壌となり、さらに耳納山地の複合扇状地からの伏流水で、栄養豊富な地下水が流れていて、農地に適した場所です。昔からこの地域で作る麦は粒づきが良いといわれる所以は、そういったところにあると思います。地元の方たちには当たり前のことなのか、高品質な麦を生産していることも、全国でも珍しい二毛作が行える地域であることも、あまり知られていません。うきはで地域活性化に注力され、小麦文化を大切に思う大先輩が、大手製粉企業の地元でありながら、地元産の小麦でなく外国産小麦が多く使われていることを憂いていました。うきは小麦のおいしさを地元の人たち、さらには全国に広めて、うきは産小麦の輝きを取り戻したいと話されていて、私自身もその思いに賛同しました。考えたのは、うきはの小麦を若い世代の人たちに知ってもらおう、地元産小麦を使ったオリジナル商品を作ろうということ。でも、一人ではできません。小麦の生産者、製粉企業、食品製造・販売者、行政、金融機関など、みんなで力を合わせて川上から川下までをまとめなければならないと思い、「うきは小麦活性化プロジェクト」を立ち上げました。2021年9月のことです。

うきはの小麦を広めるために
地域の活性化プロジェクトを推進

うきはの小麦をもっと多くの方に知ってもらうにはどうすれば良いかを思案したときに、商品化をして広く販売をしていこうと考えました。6次産業化のスキームモデルを参考にして取り組もうと決め、新たに新商品開発のための「うきは小麦新商品開発協議会」を立ち上げたのです。この取り組みに賛同いただいた企業・団体8社の旗振り役と、食品関連企業10社が、それぞれの知見や得意分野を活かし、新商品の開発を行ってもらうよう依頼しました。国の補助事業(麦・大豆利用拡大事業に係る新商品開発等事業)を活用できたことで、開発に取り組まれたみなさんの開発費をサポートできたのは、プロジェクト全体にとっても大きな力となりました。また、開発のヒントや市場性を把握して、より注目度の高い商品を生み出すために、6次産業化アドバイザーやスイーツプランナーにも参画してもらい、新商品開発を加速度的に進めるためのサポートを充実させたのです。おかげで35品目の新商品が完成し、現在、道の駅をはじめ、イベントなどで販売を行い、認知度アップに励んでいます。うきは産100%の小麦粉を使った商品をブランド化して差別化を図るために、「うきはん小麦」(商標登録済み)と命名しました。
「うきは小麦活性化プロジェクト」では、若い世代へのうきは産小麦の理解を深めてもらうことと、認知拡大を目指しています。その取り組みとして、市内にある浮羽究真館高校に協力を要請したところ、快くOKをしていただきました。「うきはん小麦」 のロゴは同校の生徒さんたちに考案してもらったものです。

うきは小麦活性化プロジェクト 代表
うきは小麦新商品開発協議会 会長
松尾 潤一

まずは小麦のことを知ってもらうために、実際に畑で播種や麦踏み、収穫などの農業体験をして、収穫した小麦は製粉し、ぶっかけうどんを食べてもらいました。すると、「おいしい!」と目を輝かせて食していた様子を見て、プロジェクトの意義を実感でき、関わった人たちみんなが満足感を得ることができました。さらに、校内の有志でうきは小麦を使った料理クラブをつくり、料理やスイーツに挑戦。協議会メンバーのシェフやオーナーたちも講師として参加しています。昨年の卒業生の中には、このクラブで料理の楽しみを知り、調理製菓学校へと進学した生徒さんもおります。将来、その子たちがここに戻り、うきは産小麦や食材を使った飲食店などを始めてくれたら、この上ない喜びです。プロジェクトは着々と進展をしていますが、もう一つ大きな取り組みとして「アンテナショップ」の立ち上げを目指しています。うきは産小麦をもっと多くの方に知ってもらうために、商品を販売したり、麺打ち体験や料理体験ができる施設にしたいと考えています。

すべてはプロジェクトメンバーのみなさんが、趣旨に賛同し、地元を愛する想いで成り立っています。決して止めることなく、プロジェクトを推進していく使命を感じています。

うきはプロジェクト体制図

うきはプロジェクト体制図

プロジェクトのために協議会を発足

食品関連企業10社が参画。「うきは小麦新商品開発協議会」として発足しました。

プロジェクトでの取り組みが
参加企業の財産になった

プロジェクト発足の前段階で、うきは産小麦を使った新商品開発を、生産者、製粉企業、食品関連企業、金融機関、行政が一体となり、横断的なプロジェクトとしてスタートさせたいという話しを伺いました。参加を決めたのは、元々、国内産や地元産の小麦に興味があり、外国産が多く使われている現状に疑問を持っていたからです。地元の食材を活用した町おこしにも興味がありました。プロジェクトには食品関連企業が10社参加し、うきは産小麦を使った新商品開発に取り組みました。開発にはコストがかかりますが、この取り組みの一部が「麦・大豆利用拡大事業に係る新商品開発等事業」に採択され、補助金が活用できたことも大きな進展だったと思っています。私は事務局長としてみなさんの開発に寄り添ったり、相談にのったりしていましたが、会員のみなさんも、毎日忙しい中、全員が新商品を開発し、販売へと結びつけることができたのはうれしかったですね。

うきは小麦新商品開発協議会
事務局長
(株式会社栗木商店
代表取締役社長)
栗木 良祐

今回、普段パンやスイーツを作ったことのない方たちも参加してくれて、その方たちには製粉会社さんなどが率先して指導してくれました。ですから、この取り組みは一つのプロジェクトだけでなく、みなさんの財産になったと思っています。
今後は、他の小麦産地と張り合うのでなく、良い意味で協調して情報交換を行うことで、各地のブランド小麦が成長し、それが全国に広がって大きな渦になっていけばと思っています。

  • ㈱かがし屋 (パン工房セリオ、食パン四二六、 428Bakery、Oyatsuimo Yotsuya) フードサービス事業部/販売マネージャー 平川 健一 さん
    ㈱かがし屋 (パン工房セリオ、食パン四二六、 428Bakery、Oyatsuimo Yotsuya)
    フードサービス事業部/販売マネージャー
    平川 健一 さん

    プロジェクトに参加したことで、地元の食品関係の方たちとつながりができたことが大きいです。うきはの小麦の香りの良さを生かす商品を心がけました。

    サンプールサンサンプールサン
  • ㈱Sector2(C-B-C-Q)代表取締役 安元 圭 さん
    ㈱Sector2(C-B-C-Q)
    代表取締役
    安元 圭 さん

    一人では商品の宣伝に限界がありましたが、プロジェクト参加でイベントに出展できたり、宣伝ができたりと、大きな広がりに感謝です。

    うきはんフィナンシェ(10個入り)、うきはんカヌレ(6個入り)
  • 旬彩弁当
    代表
    宮崎 由紀 さん

    プロジェクト参加で新たに麦の商品開発に挑戦できました。次に何を作ろうかとワクワクしています。つながりの力を実感しています。

    グリッシーニ、パウンドケーキ
  • レストラン・ジョルジュマルソー
    代表取締役総料理長
    小西 晃治 さん

    高校生と一緒に商品開発をしたりレシピを考案したり、こちらも刺激を受けています。生産者との意見交換ができたのも良かったです。

    うきはんブラウニー茶ゃん(2個入り)、うきはんブールドネージュ(3個入り)
  • パティスリーナチュール
    オーナーシェフ
    國武 修一 さん

    うきはの土産品が少なかったので、今回のきっかけで土産品が増えて良かった。プロジェクトのみなさんと人脈ができてうれしいです。

    うきはんマドレーヌ(12個入り)
  • ㈲リカー&フードショップ吉村
    代表取締役
    吉村 竜介 さん

    個々に町の活性化を図るのは難しく、良い取り組みだと思います。別エリアで自社商品の認知が高まるのは、プロジェクトならでは。

    冷凍ピザ
  • ぱんのもっか
    代表
    吉岡 亮次 さん

    地域の活性化に少しでも貢献したいと参加しました。今後は、うきは産小麦を使ったお好み焼き屋や他ジャンルにも挑戦したいです。

    ロゼブロート
  • PROSPERO(プロスペロ)
    オーナー ソムリエ
    石井 徳 さん

    地元産小麦を使って強いアイテム作りを行いたいです。プロジェクトで生産者の方と話し、おいしい商品を作る責任を実感できました。

    うきはのバケット、うきはの食パン
  • カフェレストラン ラ・セーヌ
    オーナー
    江口 恵子 さん

    地元産小麦が認知されていないことを憂いていました。プロジェクトという横のつながりの強みを活かし、情報発信していきたいです。

    うきはん小麦のモダン焼き、うきはん小麦の生パンケーキ、うきはん小麦のくりいむあーんどーなつ
  • ㈱栗木商店
    代表取締役社長
    栗木 良祐 さん

    プロジェクトへの参加で、製品開発に、さらに注力しています。自社商品が地元産小麦ブランド化の一翼を担えればと思っています。

    うきは小麦そうめん、ひやむぎ、うきはん小麦塩拉麺など

ブランド化したうきは産小麦を地元の子どもたちに食べてもらいたい

うきは産小麦の生産に注力する農業法人・みずほファームの石井康太さん。
スマート農業を取り入れて就労環境の整備を図るなど、若い世代の就農拡大にも取り組んでいます。

小麦の使われ方を知ることで
より目的にあった生産を目指す

うきは地域は、昔、たびたび筑後川の氾濫で水害が出ていたと聞いています。そのおかげで肥沃な土壌ができ、その後の治水対策もあって、水害も少なく果樹園などが多い地域になりました。耳納山地からの伏流水が流れているので水に困ることも少なく、栄養豊富な土壌で果物に限らず、小麦や米なども育っています。

株式会社みずほファーム
取締役
石井 康太

私の家は祖父の代から、うきはで農業を営んでいます。父の代までは兼業農家で、1980年代から麦、大豆、米を作っていました。私の代になり、農業法人化を実現し、現在は約85haの土地で農作物を作っており、そのうち60 ~ 70%で麦と米の二毛作を、残り30 ~ 40%で大豆と麦の二毛作を行っています。麦は、チクゴイズミ、ミナミノカオリ、シロガネコムギを作っています。私が「うきは小麦活性化プロジェクト」に参加したのは、代表の松尾さんに声をかけてもらったことがきっかけです。今まで生産することばかりに目が向いていて、自分が作った小麦がどのように加工され、どんな商品になって、どんな方が食べているかなど、考えたこともありませんでした。

でも、このプロジェクトでお店の方々が試行錯誤をして商品開発に取り組んでいる姿を見たり、使う人の声を聞いて、より用途に合った小麦作りを目指したいと考えるようになりました。
さらに、地元の高校生たちが麦踏みや麦刈り体験などに来てくれたり、小さなお子さんたちも参加してくれたりして、自分が食べているものがどうやって作られているかを学んでいってくれています。みなさん、とても楽しそうに体験している姿を見るとうれしいですね。
これからも、小麦生産に興味を持ってくれる方たちに積極的に情報提供をして、生産者を増やすことや、より品質の良い小麦作りにも取り組んでいきたいです。地元の特色が出せるブランド小麦を作り、幼稚園や学校の給食で子どもたちに食べてもらうことが、今後の目標です。

みずほファームの圃場

うきは市の小麦の認知拡大に向け行政として最大限サポートしていきます

「うきは小麦活性化プロジェクト」には、うきは市役所も参加し、PRなどを行っています。
市内の小麦収量を増やすため、産地の維持発展を目指し取り組んでいます。

フルーツだけじゃない!
うきは市の小麦の魅力を存分にPR

うきは市役所が、「うきは小麦活性化プロジェクト」に参画したのは2023年4月からです。松尾代表から、「うきは市の小麦をさらに振興していくには、行政、民間が一緒になってプロジェクトとして取り組んでいかなければならない。それには行政の支援なくしては始まらない」と、強い思いで話しをいただいたことからでした。うきは市の産業として、フルーツの生産が盛んということは広く知られています。6月くらいから桃の収穫、夏にはぶどう、秋には柿や梨、春にはいちごと、年間を通してたくさんのフルーツを生産しています。

でも周りを見渡してみると米・麦・大豆の生産も盛んであり、私自身、市役所の職員として、小麦や大豆、米のPRもしていかなくてはならないと感じていました。現在、うきはの小麦の利用拡大に向け、品質の良さなどを県外にもアピールしたり、プロジェクトメンバーのみなさんが開発を行った商品についても宣伝をしたりしています。販売やPRにも励んでいますが、さらに生産にも注力しています。プロジェクトメンバーでもあるみずほファームさんを中心に、小麦栽培に興味を持った人たちが参入しやすい体制づくりを行ったり、環境にやさしい農業を目指すために、減農薬や減化学肥料の農業を取り入れ、うきは小麦のブランド向上に取り組んでいます。うきは市産の令和5年度の小麦収量は、天候などもよく例年と比べ豊作となりました。内訳としては、ミナミノカオリが一番多く1,539t、チクゴイズミが1,273t、シロガネコムギが65tとなりました。今後の年間収穫量については2,500t以上を目標に生産体制の整備を行い、産地の維持発展を行っていきたいと考えております。

個別ではなかなか取り組めないことも、さまざまな人たちが関わりを持つことで大きな力が生まれます。私もメンバーの一員として、うきはブランドPRの推進に、これからも積極的に取り組んでいきたいと思っています。

うきは市役所
農林振興課農政係 係長
井上 慎也

うきは市内にある白壁の街並み

うきは市役所

うきは市役所

地元高校生もプロジェクトに参加して麦刈りやレシピ商品化を体験

次世代を担う高校生たちにもプロジェクトに参加してもらい、播種から収穫までを体験し、地元農産物への関心を深めてもらっています。小麦プロジェクト部では、小麦を使った料理にも挑戦しています。

高校生の視点から生まれる
新商品がおもしろい

「うきは小麦活性化プロジェクト」の一環として、2022年の夏ごろから、当校でもいくつかのプロジェクトに参加させていただいています。実際に生徒たちが、小麦の播種から麦踏み、収穫体験までを行って、地元の小麦の存在を身近に感じる良い体験ができました。

さらに、小麦プロジェクト部が発足し、月に1回有志のメンバーが集まって、うきはの小麦を使ったレシピを考え、実際に調理するという活動を行っています。この取り組みは、生徒が自主的に参加する部活動で、現在は10名のメンバーがいます。毎回自分たちで、小麦粉を使って作りたいメニューを考えてシェフに提出し、その中から選んでもらったもののレシピを自分たちで考えて調理をします。調理を行うときには、プロジェクトに参加しているレストラン・ジョルジュマルソーの小西シェフとスタッフの方にもお越しいただいて、アドバイスを受けながら一緒に調理をします。スタートして2年になりますが、今までにシチューやチヂミ、ミルクレープ、れんこん餅など、さまざまなメニューにトライしました。



上)小西シェフや日野先生が生徒たちを指導。プロジェクトメンバーも参加する
左)本日の調理レシピは「チュロス」

有名フレンチレストラン(福岡市)のシェフと一緒に調理体験ができることは、生徒たちにとって非常に良い体験になっていると思っています。昨年は、オリジナルの「抹茶ブラウニー」を作って商品開発も行いました。こういった経験を通して、生徒たちが地元の小麦の良さを実感し、身近に感じるようになってくれたことはとても良かったと思っています。今後、このプロジェクトがきっかけで、地元食材に関心を持った子が調理の道に進み、地元で小麦の普及活動に加わってくれたら、うれしいですね。

福岡県立浮羽究真館高等学校
教諭
日野 智咲 先生

ラグビー部員のみなさんが農業体験を行いました!

麦踏みイベントの様子

麦踏みイベントの様子

収穫イベントの様子

収穫イベントの様子

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