国産麦・大豆取組事例レポートin香川県

さぬきうどんの食文化を世界に広めたい手打ちに負けない製麺機械を開発

県内外に「さぬき麺市場」を展開する株式会社あっとん。香川県の本場さぬきうどんを、日本のみならず世界に広めたいと、手打ちうどんの良さを再現できる機械による麺作りを目指して、「外食産業等と連携した農産物の需要拡大等事業の新商品開発等事業(麦類)」の補助金を活用しオリジナルの製麺機を開発した。次世代にも伝統的なさぬきうどん作りを継承したいと、同社の神原代表取締役、神原常務取締役はご夫婦で力を合わせて日々奮闘している。ほかにもオリジナル製麺機作りに関わった、麺作り名人として知られる同社の丸岡統括本部長と、福井工作所取締役にも話しを聞いた。

追求したのは手打ち・手練りの再現性ができる機械づくり

 

写真左から、神原代表取締役、丸岡統括本部長、神原常務

 

国産小麦を使用した品質重視の販売戦略

神原代表取締役 私たちが目指したのは、国産小麦を100%使用した手打ち、手練りのさぬきうどんの食感、風味、光沢を再現できる製麺機械を造ることでした。たとえば手打ちで麺作りをする際は、タテ、ヨコに何回も生地を伸ばしますが、従来の三連ロール式の機械では、一定方向にしか伸ばせないものが主流でした。でも、それではたんぱく質が安定しない国産小麦粉ではうまくいかず、低加水にしたり、練り時間や湯がく時間を長くしたりと、手打ち、手練りの品質に近づけるために別の手仕事が増えてしまうという課題がありました。私たちの想いは、手打ちと同等の品質を保った麺の生産量を増やすこと。そのためには、クオリティの高い麺作りができる機械の開発は必要不可欠でした。弊社の麺打ち名人・丸岡には、その技術や知識を製麺機械の開発に生かしてもらいたいと、一緒になって試行錯誤を繰り返しました。

神原常務 機械の開発に関しては、今回パートナーとなっていただいた福井工作所の福井さんの協力なくしては実現できませんでした。私たちには作りたい麺がはっきりと見えていたので、機械がある程度出来上がって試作をした時も、妥協することなく何十回と改良をお願いしました。時にはお互い譲らず、ぶつかったこともありましたが、おいしいさぬきうどんの麺をお客様に食べてもらいたいという心根の部分は同じですから、改良や調整を重ねて両者が納得する機械が完成しました。
神原代表取締役 私たちが福井さんに発注することを決めたのは、60余年にわたる機械製造の歴史を持った会社であること、製麺機械造りの実績も多く、地元香川の企業ということもありました。資金面では、今回の製麺機械の開発についても、国(農林水産省)の補助金を活用することができ、本当に助かりました。
神原常務 機械の開発に加えて、私たちが取り組むべきは新規取引先の開拓でした。全国の飲食店オーナーやメーカーさんなどに、うちのうどんをアピールすると「本当においしいね」と言ってくださるのですが、一方で「価格が高い」と言われてしまうのです。でも、県産小麦・さぬきの夢2009を使った手打ちうどんを広めたい思いで、価格を下げることなく品質重視の姿勢で頑張りました。最近になってニーズに変化が生じ、少し高くても安心できる国産小麦を使ったうどんに注目してくれる人たちが多くなったのです。「あっとんのうどんを使いたい」と指名買いをしてくれる方が増えてきて、手応えを感じています。
神原代表取締役 私たちは冷凍技術にも注力し、出来立てのおいしさそのままの、冷凍さぬきうどんの開発にも取り組みました。たとえば飲食店の方がメニューの一つにうどんを加えたいと思ったり、さぬきうどんの店をオープンしたいと考えた時にも、一から修業をして、店舗でうどんを打って、というのでは時間がかかります。うちの冷凍さぬきうどんを使ってもらえば、味のばらつきが出ることなくおいしい麺を安定的に提供できます。いつでも作りたてのおいしさが味わえるので、さぬきうどんをメニューに加えたい企業様も参入障壁が低くなり、もっともっと、さぬきうどんを世の中に広めることができるのです。私たちは、さらにさぬきうどんの食文化を広めたいと海外戦略も視野に入れて動き出しています。

株式会社あっとん
代表取締役
神原 里司さん

株式会社あっとん
常務取締役
神原 希世希さん

神原常務 もうひとつ取り組んでいるのが、ヴィーガンうどんです。こちらも、試行錯誤を重ねに重ね、納得できるおいしいヴィーガンうどんを作ることができ、日本のインバウンド需要に応えるとともに、海外に向けてアピールしていこうと考えています。

神原代表取締役 さぬきうどんの食文化を、国内のみならず世界へ広めていくために、まだまだ汗をかいていこうと思っています。

出汁、うどん、具材が3層になったレンジ対応の冷凍さぬきうどん。
作りたてそのままの味を冷凍で再現することに成功

ヴィーガン向けの「KONNICHIWAさぬきうどんシリーズ」は、常務である奥さまの意見で再現したもの。カレー味や担々麺などバラエティ豊か

 

本流の技術を継承するために人材育成と機械化に取り組みたい

株式会社あっとん
統括本部長
丸岡 光男さん

日々進化し続けるさぬきうどんを目指す

私の麺作りとの出合いは、以前在籍していた会社で師匠に一から手ほどきを受けたのが始まりです。その後、国家資格の製麺技能士資格を取得。 1991(平成3)年には、全国の製麺技能士が集まる全国製麺コンテストで優勝することもできました。麺作りを始めて今年で51年経ちますが、さぬきうどんの本流の技術を絶やすことなく、後輩たちに継承していきたいと考え指導にあたっています。
うどん作りで私が大切にしているのは、日々進化し続けなければいけないということ。周りは日々どんどん進化しているのですから、現状維持では退化しているのと同じことなのです。合わせて、麺作りでは機械を使いますが、「機械に使われるのではなく、機械を使いこなす職人になれ」と、後輩たちにいつも言っています。機械が麺作りの一部を担ってくれたとしても、麺作りの基本が分かっていなければ決しておいしいものはできません。私は香川全体でもっともっとおいしいうどんを作りたい、みんなで良いものにしていきたいと考えています。そのために良い原料を作ってもらいたいから、小麦栽培の現場にも足を運び、生産者の人たちと話し合いを重ね、畑作りにも参加しています。香川では「さぬきの夢」ブランドの小麦粉を推奨していますが、最初の頃は思うような製麺ができず、いろいろ苦労しました。でも関係者と意見交換し、技術を磨いて、おいしいうどんに仕上げることができたのです。来年からは、さらに良くなった「さぬきの夢2023」が主流になるようです。ますますおいしい麺が作れると今から期待しています。

よりおいしくなったさぬきうどんですから、やはりもっともっと広めたい。それに、私もだいぶ歳を重ねましたから、自分の技術や知識を後輩たちに引き継いでいきたいと考え、製麺機械の開発に携わりました。本来は、すべて手打ちにしたいですが、香川のおいしいさぬきうどんを全国の人に食べてもらいたいと考えたときに機械化は必須です。どうしたら手打ちにより近づくことができるか、社長や常務、福井工作所さんと徹底的に話し合い、納得のいく機械ができたと思います。今後も製麺機械のさらなる品質向上と、後輩育成に励んでいきたいです。その後は、ゆっくりと山奥で完全予約制の手打ちうどん店でも、のんびりやりたいですね(笑)。

店では後輩への技術指導も欠かせない仕事。
丸岡氏のうどん作り技術を次世代へと繋げていく

クライアントが使いやすく、おいしい製麺ができる機械造りが使命

有限会社福井工作所
取締役
福井 清さん

どんな原料からもおいしい麺作りを実現

弊社は、戦後に父が鉄工所を創業したことが始まりで、1965(昭和40)年にはドラムが木製のミキサーや切出機を造っていました。いつの頃からか、「うどん県香川県」というキャッチフレーズで全国にさぬきうどんが広まったこととあいまって、製麺機械の発注も増加していったのです。
うどん作りは、練り→鍛え→熟成→圧延→切断という工程で、最終形態はさまざまな形になります。生うどんを茹でたら「ゆでうどん」、冷凍したら「冷凍うどん」、生うどんを乾燥させたら「半生うどん」となり、私たちは、その最終形態や生産量、生産品目ごとに多種多様な機械を造ります。クライアントの要望を逐一確認して、最適な製麺機械をご提供するように心がけています。
香川県では1999年頃から新品種小麦の開発に取り組み、「さぬきの夢2000」を生み出しました。当初、この小麦で作った麺はおいしかったのですがたんぱく質にバラつきがあり、麺作りがしにくい品種でした。でも製麺機械メーカーとしては原料がどんな状態であれ、おいしいうどんができるよう、加水量、塩度、ミキシング羽根の回転数、練り時間、生地温度などの条件を考慮しながら最適なミキシングを行える機械造りに取り組んできました。
その中で、今回のあっとんさんの製麺機造りは細かな調整を必要とする仕事で、今まで培った経験と知識を活かすことができたと思っています。麺打ち名人といわれる丸岡さんの作るうどんを再現するために、ロール製麺機のスタンダードタイプを改良しました。ロールが大きく圧力のかかるタイプのものにして、スピードを調整することで帯麺帯がよく絞まるようにしたのです。その調整幅などを何度も話し合い、テストを繰り返して完成させることができました。最終的に満足いただける機械ができたのでひと安心でした。

近年、香川のうどん店の減少が続いていると聞いています。製麺機メーカーとしても、うどん店の減少を憂いています。国内外に新たな販路を拡大していくことは大切ですが、地道に足場を固めていくことも必要と考えています。今後も、県産小麦が改良され、おいしく、製麺しやすく、より低価格の品種が出てくることを期待しています。また、弊社としてもお客様である製麺業者さんの細かな要望を伺いながら、人手不足にも対応できるよう、より良い製麺機の開発に取り組んでいきたいと考えています。機械は購入すると10年くらいは使えるので、その後は何度もお会いするチャンスがあるわけではありません。お客様との一期一会の出会いを、今後も大切にしていきます。

福井工作所の工場
あっとんさんからの依頼で製作した特注の製麺機

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