国産麦取組事例レポートin滋賀県

滋賀県産小麦100%の学校給食用パンから見える地産地消滋賀県モデル

創業以来70年以上にわたり学校給食用パンを受託してきた丸栄製パン(滋賀県長浜市)では、国の補助事業(平成27年度新商品開発等事業補助金)を活用して、滋賀県産小麦(以下「県産小麦」という。) 100%の学校給食用パンの開発に取り組みました。そして令和4年度からは、滋賀県の学校給食用パンはすべて県産小麦100%使用を実現しました。丸栄製パンをはじめ関係者の方々から、その取組について取材しましたので紹介します。

目の前にある小麦でパンが作れない

丸栄製パン株式会社代表取締役 辻井 孝裕 氏

丸栄製パン株式会社代表取締役
辻井 孝裕 氏

滋賀県は全国でも有数の麦の生産量を誇り、私の地元でも麦畑が広がり、梅雨前には金色に輝く景色を見ていました。しかし、その小麦はパンには適してないことがわかりました。そこから地元の小麦を使って美味しいパンが作れないかと模索が始まりました。
小麦のことを色々調べていくうちに出会ったのが「ゆめちから」でした。ただ、小麦は特産品ではないため、ある程度の量を作らなければ生産者の協力を仰げない。幸い弊社は学校給食用パンの製造を委託されており、これを機に、国からの補助金を活用して、メーカーと共同で国産小麦のパンを大量に焼き上げるオーブンを開発しました。県産小麦で美味しい学校給食用パンを作るという夢がここから動き始めました。

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滋賀県でパンを作り続ける意味

学校給食では、決められた規格の安心・安全なパンを供給するために、給食ならではの対応が要求されます。学校給食用パンに長年携わってきた弊社だからこそできることがあります。

「決められたことを決められた通りに作る」だけでなく、「それ以上の価値を加える美味しいパン作り」をしなければならないとの思いから、原材料の外国産小麦を県産小麦への置換えを滋賀県学校給食会にお願いしました。パン組合(滋賀県学校給食協同組合)が中心となって県産小麦を用意し、滋賀県学校給食会に買い上げて貰い、弊社が委託を受け加工し学校給食用パンを提供するという全国でも例を見ない取組が実現しました。

年1回の試験的な始まりから、1年に1か月間、2か月間と徐々に回数を増やしながら、令和4年度からはすべての学校給食用パンを県産小麦100%にすることができました。県産超強力小麦「ゆめちから」の生産では、同世代の生産者イカリファーム(滋賀県近江八幡市)の協力を仰ぎました。県産小麦で学校給食用パンを作るという私の思いに賛同を得られたこと、そして学校給食用パンの提供という取組を継続し拡大していくためには、なによりも若い生産者が必要だったからです。イカリファームと色々試行錯誤を重ね、今では地元JAから調達する「ミナミノカオリ」をブレンドすることで、もちもち感のあるしっとりした美味しいパンを焼き上げることができています。

地元で作られた小麦をパンにして地元の子供たちに届ける。それが滋賀県でパン屋としての私がやれること、やる意味があることだと思います。滋賀県で県産小麦100%ができたので、今後は他府県でも同じような取組が始められる生産者、加工業者が出てくることを望んでいます。

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滋賀県産小麦100%パンで届ける「おいしい」「笑顔」「元気」

公益財団法人 滋賀県学校給食会常務理事・事務局長 小林 常浩 氏

公益財団法人 滋賀県学校給食会常務理事・事務局長
小林 常浩 氏

滋賀県学校給食会では、主に供給する良質な主食(精米、パン、めん)において、できる限り滋賀県産にこだわった物資の安定供給に努めています。そうした取組の中で、20年前に学校給食用パンの供給において県産小麦の10%使用を始めました。そして関係各所の協力のもと、今年度からはすべての学校給食用パンで県産小麦を100%使用しています。

安定供給がなによりも求められる学校給食で、生産量の確保と品質の安定については、特に関係者の皆様の様々なご苦労があったと聞いていますが、学校給食会にとっては、県産小麦100%の給食パンで、未来を担う滋賀の子供たちに、満面の笑顔を届けることができることに、心から感謝しているところです。

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地産地消という食育の推進においても、地域の自然、文化、産業等への理解を深めるとともに生産者の努力や食への感謝の気持ちをはぐくむうえでも重要なことです。子供たちの「県産小麦で作られた給食のパンはおいしかった」という思い出が、故郷滋賀への愛着と誇りに育っていくものと信じています。

地場の小麦を100%使用するのは全国でも数例と聞いていますが、滋賀県学校給食会としても、これを誇りに、安定的な供給が持続できる体制づくりに尽力することで、いつまでも続けていきたいと考えています。

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国産パン用小麦の救世主、「ゆめちから」

株式会社イカリファーム 代表取締役 井狩 篤士 氏

株式会社イカリファーム 代表取締役
井狩 篤士 氏

学校給食用パンを県産の小麦で作りたいという丸栄製パンの取組は、我々生産者にとってもとても有意義に感じています。昨今のコメ余り、海外産小麦の供給事情から、中長期的に米から小麦にシフトすることが求められていますが、超強力小麦「ゆめちから」は海外依存度の高いパン用小麦の置換えの救世主とも考えられます。今回の取組では、弊社で育てた麦が学校給食用パンとして、私の子供を含め地域の子供たちに届きます。消費者の顔が見える、これは地産地消においても非常に魅力的なことで、生産のモチベーションも高まります。ただし、安定的な生産量と品質の確保、物流、保管などフローの一部を自分たちで管理するという課題もあります。
今後は、滋賀県を強力小麦の一大生産地とすべく、周りの生産者を巻き込んで生産、流通フローの構築を目指していきます。

“三方良し”、まさに近江ならではのプロジェクト

JAレーク滋賀 代表理事理事長 木村 義典 氏

JAレーク滋賀 代表理事理事長
木村 義典 氏

丸栄製パンとは、当JAの「ミナミノカオリ」を使った学校給食用パンの試験的な導入について共に守山市市長に直談判したことがきっかけとなり、今日の取組に繋がっています。
学校給食で使用されるパン用小麦はほとんどが外国産であるため、ポストハーベストによる残留農薬が危惧されますが、県産小麦は比較的安全性の高い農薬で防除回数も少ないため、安心して子供たちに提供できます。安全でおいしい学校給食用パンで子供たちも地域も喜び、地元の生産者もパン用小麦の「ミナミノカオリ」を作ることで、経営安定対策等で所得が増える。まさに近江商人の“三方良し”の考えに通じる素晴らしい取組と言えます。
今後も生産者への説明や播種前の栽培研修会、穂肥時期の現地農談会の開催などで、この取組への理解を深めていきます。

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