目の前にある小麦でパンが作れない
滋賀県は全国でも有数の麦の生産量を誇り、私の地元でも麦畑が広がり、梅雨前には金色に輝く景色を見ていました。しかし、その小麦はパンには適してないことがわかりました。そこから地元の小麦を使って美味しいパンが作れないかと模索が始まりました。
小麦のことを色々調べていくうちに出会ったのが「ゆめちから」でした。ただ、小麦は特産品ではないため、ある程度の量を作らなければ生産者の協力を仰げない。幸い弊社は学校給食用パンの製造を委託されており、これを機に、国からの補助金を活用して、メーカーと共同で国産小麦のパンを大量に焼き上げるオーブンを開発しました。県産小麦で美味しい学校給食用パンを作るという夢がここから動き始めました。
滋賀県でパンを作り続ける意味
学校給食では、決められた規格の安心・安全なパンを供給するために、給食ならではの対応が要求されます。学校給食用パンに長年携わってきた弊社だからこそできることがあります。
「決められたことを決められた通りに作る」だけでなく、「それ以上の価値を加える美味しいパン作り」をしなければならないとの思いから、原材料の外国産小麦を県産小麦への置換えを滋賀県学校給食会にお願いしました。パン組合(滋賀県学校給食協同組合)が中心となって県産小麦を用意し、滋賀県学校給食会に買い上げて貰い、弊社が委託を受け加工し学校給食用パンを提供するという全国でも例を見ない取組が実現しました。
地元で作られた小麦をパンにして地元の子供たちに届ける。それが滋賀県でパン屋としての私がやれること、やる意味があることだと思います。滋賀県で県産小麦100%ができたので、今後は他府県でも同じような取組が始められる生産者、加工業者が出てくることを望んでいます。
滋賀県産小麦100%パンで届ける「おいしい」「笑顔」「元気」
安定供給がなによりも求められる学校給食で、生産量の確保と品質の安定については、特に関係者の皆様の様々なご苦労があったと聞いていますが、学校給食会にとっては、県産小麦100%の給食パンで、未来を担う滋賀の子供たちに、満面の笑顔を届けることができることに、心から感謝しているところです。
地場の小麦を100%使用するのは全国でも数例と聞いていますが、滋賀県学校給食会としても、これを誇りに、安定的な供給が持続できる体制づくりに尽力することで、いつまでも続けていきたいと考えています。
国産パン用小麦の救世主、「ゆめちから」
学校給食用パンを県産の小麦で作りたいという丸栄製パンの取組は、我々生産者にとってもとても有意義に感じています。昨今のコメ余り、海外産小麦の供給事情から、中長期的に米から小麦にシフトすることが求められていますが、超強力小麦「ゆめちから」は海外依存度の高いパン用小麦の置換えの救世主とも考えられます。今回の取組では、弊社で育てた麦が学校給食用パンとして、私の子供を含め地域の子供たちに届きます。消費者の顔が見える、これは地産地消においても非常に魅力的なことで、生産のモチベーションも高まります。ただし、安定的な生産量と品質の確保、物流、保管などフローの一部を自分たちで管理するという課題もあります。
今後は、滋賀県を強力小麦の一大生産地とすべく、周りの生産者を巻き込んで生産、流通フローの構築を目指していきます。
“三方良し”、まさに近江ならではのプロジェクト
丸栄製パンとは、当JAの「ミナミノカオリ」を使った学校給食用パンの試験的な導入について共に守山市市長に直談判したことがきっかけとなり、今日の取組に繋がっています。
学校給食で使用されるパン用小麦はほとんどが外国産であるため、ポストハーベストによる残留農薬が危惧されますが、県産小麦は比較的安全性の高い農薬で防除回数も少ないため、安心して子供たちに提供できます。安全でおいしい学校給食用パンで子供たちも地域も喜び、地元の生産者もパン用小麦の「ミナミノカオリ」を作ることで、経営安定対策等で所得が増える。まさに近江商人の“三方良し”の考えに通じる素晴らしい取組と言えます。
今後も生産者への説明や播種前の栽培研修会、穂肥時期の現地農談会の開催などで、この取組への理解を深めていきます。