麦のスペシャリスト探訪
Specialist Interview01

株式会社 丸山製麺
取締役
丸山 晃司

丸山 晃司
製麺業界をざわつかせている3代目がいる。そんな噂にひかれて、ぜひ話を伺いたいと訪れたのは、昭和33年創業という老舗製麺所の丸山製麺。大田区上池台にある本社ビルで我々を迎えてくれた丸山氏は、製麺所というどこかレトロなイメージとはかけ離れた爽やかな若手起業家という印象であった。

おいしさのオーダーメイド

丸山製麺は、創業以来、厳選された原料を使用し、衛生管理の徹底された工場で製麺してきた。ラーメン屋、社員食堂、駅の立ち食いそば屋を卸先に、数万食単位のロットで業務用麺を提供している。美味しさだけでなく、なによりも安定した味が求められる。

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丸山氏:レシピはあるんですが、麺はその日の気温や天候で微妙な調節が必要なんです。
弊社には、9名の製麺技能士がいますが、彼らの職人としての技と感覚が安定した味を守っています。弊社の美味しさの秘密でもあります。

美味しさの安定とあわせて、丸山製麺のもう一つのこだわりがオーダーメイド麺だという。

丸山氏:お客様の多様化するニーズに合わせて、小麦粉の配合だったり、麺の太さ、硬さであったりをさまざまに組み合わせて200種類以上の麺を製造し、それぞれのオーダーに応えています。

あらゆる麺の製法と設備を兼ね備えた丸山製麺の最高の“麺”創りへの姿勢に妥協はない。
最近では、食の安全や安心が意識されるなかで、国産というキーワードの注目度が高くなっている。うどん、そばだけでなく、ラーメンでも国産小麦粉の使用は、年々増加していると聞く。

丸山氏:確かに「きたほなみ」とか「ちくごいずみ」といった麺に適した新しい品種は、外国産小麦には出せないもちもち感を出せると人気です。マーケット的にも、国産表示のほうが売れます。あとは、価格の問題ですね。ここをクリアできれれば、国産小麦粉をもっと使いやすくなりますね。

ピンチをチャンスに!
日本で初めての試みにチャレンジ!

実家に戻って4年目を迎える丸山氏。大学を卒業した後、丸山氏が向かったのはIT業界。30歳になったら実家に戻って製麺業を継ぐと決め、そこから丸山氏は社会人生活をスタートさせた。

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丸山氏:普通なら、製粉会社とか問屋さんに仕事を覚えに行くんですが、30歳までと決められた期間で自分が一番成長できるのはどこだろうという視点で選んだのがIT業界だったんです。

実家に戻り営業や新規事業の立ち上げと忙しく過ごす丸山氏を待っていたのが、新型コロナであった。緊急事態宣言、まん延防止措置などで、外食産業が壊滅的な状況に。その荒波は、丸山製麺にも怒涛のように押し寄せた。

丸山氏:BtoBで商売している弊社にとっては大打撃ですよ。売り上げも低迷、8割くらい落ちました。

過去にも、日本経済をバブル崩壊やリーマンショックが襲った。その度に、丸山製麺は何とか立ち直ってきた。しかし、そんな経験のもとに、耐えて景気が回復するのを待っていたら、今回ばかりは会社が潰れる、丸山氏はそんな危機感を感じた。時代を先駆けるIT業界に身を置いていたことで、時代や世間の変化には敏感であった。

丸山氏:リモートが始まり、明らかに外食のあり方が変わる。大きくライフスタイルが変わっていくのを実感したんです。これは何とかしなくてはと新規事業として立ち上げたのが、“ヌードルツアーズ”という通販と冷凍自販機事業でした。

有名ラーメン店の麺とスープをセットにして冷凍で販売する冷凍自販機事業の試みは日本初である。丸山製麺がこれまでやってきたBtoBではなくBtoCへの新サービスの始まりである。スープは有名ラーメン店から買い取るので、コロナ禍で苦境を強いられているラーメン店でも喜ばれた。現在、各地に15台ほどを設置しているが、有名店の味が自宅で、24時間いつでも楽しめると好評を博している。

製麺×ITで切り開く未来

時代の変化が激しいなか、さまざまなチャレンジを試みる丸山氏の大きな武器となっているのが前職で培ったIT領域の活用である。

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丸山氏:新しいことやるにしても、食品の場合は、知ってもらえないと食べてもらえないしリピートもしてもらえない。新しい商品やサービスをどう知らせるか重要になってくるんですが、そこでTwitterを活用しています。

麺という商材と相性が比較的よいということもあって、いまでは6万を超えるフォロワーがいるという。製麺業界でも断トツのアカウント数を誇る。

丸山氏:最終的においしいかどうかは、メーカーでは判断しづらいことがあるんですね。そんなときにダイレクトな反応に触れられるのは大きいですね。やはり、美味しいという声や画像がアップされると、こちらのモチベーションもあがりますね。

その他にも、社内の連絡にも、紙で伝えることをやめてオンラインチャットツールを採用するなど、ITの領域を製麺の現場に導入することにためらいはない。

丸山氏:前職で学んだことと製麺という領域をうまく掛け合わせながら、新しいことをやっていきたいですね。今回のコロナ騒ぎを通して、新しいことをやらないと事業は衰退する、仕事とは新しい事をやることなんだと理解させられました。今後もどんどんチャレンジして、業界に新しいムーブメントを起こしたいですね。

年間300食はラーメンを食べるというアナログ的なマーケティングにも手を抜かない丸山氏。今後の丸山製麺に大いに期待させられたインタビューであった。

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