教えて原田先生!
国産小麦で作ったパンが今注目される理由とは

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原田昌博 一般社団法人 日本パン技術研究所製パン技術教育事業部

プロフィール

一般社団法人 日本パン技術研究所製パン技術教育事業部
原田昌博

15年間製粉会社に所属し研究開発業務に就く。2003年より同研究所に移り、製パンに関する研究、指導、情報発信を行う。この間、2006年から10年間、パン用国産小麦の育種開発プロジェクトの運営委員などに参画し、有望系統の製パン性評価、普及支援に関わる。2025年には「国産小麦の製パンへの利用に関する手引書」を作成し、(公財)飯島藤十郎記念食品科学振興財団の飯島藤十郎技術賞を受賞。配布部数は900部超。

01パン用小麦の移りかわり

日本ではパンを作るために小麦を年間およそ236万トンも使っています。これに対してパンや麺、菓子などに使われる国産小麦流通量はおよそ90万トンで、このうちパン用は16.8万トン(18.6%)を占めています。
主な銘柄にはつぎのようなものがあります。

  • 北海道産ゆめちから 8.7万トン
  • 北海道産春よ恋 3.6万トン

近年では、パンや中華麵用の小麦の作付比率も増えていて、確実に需要も増えています。新たな取り組みとして生産者や販売店などの地域の関係者が一体となり、地域食文化のブランド化と結びつけた新品種の導入・普及の動きが拡大しています。それにより、国産小麦を使ったブランドパンが、多く誕生しています。

それでは、市場ではどんな動きがあるのでしょうか。具体的な例を挙げましょう。

様々な企業や生産者などが協力して、
こうした取り組みが展開されています。

例1ブランド食パンを発売
<全国>

山崎製パン(株)では、北海道産小麦100%使用の高級食パン「太陽(ひ)のちから」を2020年8月から販売。小麦原料は道総研・北見農業試験場と北海道の小麦農家と連携して作り上げた小麦粉のブランド。

例2国産小麦のパンを発売
<全国>

敷島製パン(株)では北海道産小麦「ゆめちから」の小麦粉を使用した「ゆめちから入り食パン」を2012年に期間限定で発売(2013年より通年発売)。2014年より「ゆめちから」シリーズ、2020年より「国産小麦」シリーズとしてリニューアル展開し、2025年にはさらなる認知向上を図り「和小麦」ブランドを立ち上げた。2030年には同社の国産小麦の使用比率20%を目標として、取り組みを進めている。

例3大手コンビニの取り組み
<全国>

大手コンビニのセブン‐イレブンでは、福島県、茨城県、栃木県の地域限定で茨城県産小麦「ゆめかおり」※ を一部使用した菓子パン、「ゆめかおり使用いちごジャム&マーガリン」、「ゆめかおり使用つぶあん&マーガリン」を2024年11月から販売している。※パン生地の小麦粉中に90%使用。

例4地元のブランド小麦で商品開発
<九州地区>

佐賀県産小麦「はる風ふわり」を使用した商品を、主に九州で展開する2社が相次いで発売している。(株)リョーユーパンは2023年5月から「はる風ふわりブレッド」を販売。2025年2月にはリニューアルを行い、「はる風ふわりバターブレッド(6)」などを九州地区(沖縄のぞく)で販売。2025年12月1日からは『はる風ふわり17穀ブレッド』を販売。(株)九州フジパンは、2019年9月より「九州仕込みシリーズ」を発売。2024年7月より国産小麦を一部配合した「本仕込食パン」、2025年7月より「本仕込九州産小麦」を販売している。

近年、パン売り場を見ていると、国産小麦を使ったパンが増えているよね。それは、国産小麦の品質向上も一つの要因なのです。今度からパン売り場やベーカリーショップに行ったら、よく見てみて!

さらなる国産小麦の生産拡大に取り組んでおり、使いやすさや美味しさを高め、それを平準化していくことを目指した取り組みが各地で行われています。

02小麦の品質について

小麦の品質を語る際には、品種名のみで語ることはできません。製粉方法や栽培環境によっても違いが出てくるため、それらを全体的に考慮して、はじめて品質が表現できると考えています。品質について具体的にご説明していきましょう。

製粉方法について

ロール製粉と、石臼挽きでは、得られる小麦粉の品質が違なります。製粉については、目的のパンごとに(用途によって)適した小麦粉の規格値(蛋白含量や灰分値)、挽き方があります。

ロール製粉とは

大型工場で使用しているロール製粉は、高速で大量に、均質な小麦粉を作ることができます。

専門用語をわかりやすくまとめたよ。

①損傷澱粉

製粉時の衝撃によって傷の入った澱粉粒のこと。製パン時の吸水率を増やし、デンプンを糖に分解する消化酵素・アミラーゼの作用を受けるため、生地中の麦芽糖量を増やします。無糖生地の発酵や焼き色、風味を向上させます。ですが、多すぎるとパンが膨らみません。

②灰分

小麦粉を燃やした後に残るミネラル成分の量で、外皮が多く含まれる小麦粉ほど数値は高くなります。小麦粉の品質を表す指標です。

③フェノール化合物

外皮に含まれる色素成分の一種で苦味を呈します。酸化防止作用のある化合物です。

④遊離糖

水で抽出できる糖分で、ブドウ糖、果糖、ショ糖、麦芽糖、オリゴ糖などが含まれます。

⑤遊離のアミノ酸

水で抽出できるアミノ酸で、小麦には味を感じない程度、極微量含まれています。

⑥製パン性

主としてパンの膨らむ能力を指していますが、生地を捏ねる時の吸水性、強いミキシングに対する適性、生地の作業性、膨らんだパンの大きさなどによって評価されます。

  • 小麦原料のブレンドの仕方でも、得られる小麦粉の品質は違います。
  • 製粉歩留まりの違いによる一等粉、二等粉、全粒粉でも加工適性は異なります。

石臼挽き小麦粉の特性

▶︎ 粒度分布帯が幅広い

  • 微粉砕小麦粉の特性を備える
  • 微粉砕は損傷澱粉(①)が多く、加水量が増える

▶︎ 高灰分(②)小麦粉は遊離のアミノ酸が多く、焼き色を向上させる ▶︎ 高灰分小麦粉はショ糖(ブドウ糖、果糖も含む)含量が多い ▶︎ 食物繊維含量が多い(外皮部分の繊維の切れ込みが多い)

  • 配合比率を増やすと製パン性が低下する
  • 同時にフェノール化合物(③)による苦味を伴う

※石臼挽き小麦粉を混ぜると、灰分(+)、遊離糖(④)(+)、損傷澱粉(+)、遊離アミノ酸(⑤)(+)、製パン性(⑥)(―)になります。また石臼挽きでは、高灰分小麦粉になります。

上の図において、黒字:輸入小麦で作られた小麦粉銘柄、赤字:国産小麦で作られた小麦粉銘柄

栽培環境の影響について

栽培環境によって、小麦に与える影響の違いがあり、以下のような影響が考えられます。

  • 窒素肥料の施肥具合によって、製パンに必要なタンパク質含量が変動します。
  • 単位面積当たりの収量によっても、製パンに必要なタンパク質含量が変動します。
  • 収穫時期に雨が降ると、小麦中の酵素(アミラーゼ)活性が高まり、小麦粉の品質が低下します。
  • 干ばつなどの影響を受けると、小麦粒が痩せて製粉したときの小麦粉の品質が変化します。

輸入小麦銘柄は用途に応じてタンパク質含量やグルテンの強靭さが変化しています。
国産小麦では、過去に流通したパン用品種の中にはグルテン物性が製パンには不十分な品種もあります。

製パンやパン用小麦粉を語る際に大切な「アミラーゼ」と「グルテン」についてご説明しておこう。「アミラーゼ」は澱粉を加水分解する酵素の総称で、製パンでは澱粉を麦芽糖に分解するβ(ベータ)アミラーゼと、麦芽糖とデキストリンに分解するα(アルファ)アミラーゼが重要です。αアミラーゼは、健全な環境で収穫された小麦には、ほとんど含まれていません。「グルテン」は、小麦粉に含まれるグルテニンとグリアジンの2種類のたんぱく質が水和することで結びついて、「グルテン」を形成するよ。「グルテン」はパンや麺のコシやふくらみに大きく関わっているんだ。

品種の性能について

グルテンの遺伝型によって、製パンに必要なパン生地の弾力性が異なります。DNAを構成する塩基配列は品種によって違うこともあります。この配列の変化(変異)がグルテンを構成するアミノ酸の種類に変化を与え、グルテンの強靭さに影響を与えます。特に強い凝集性を与える高分子量のグルテニン分子で、蛋白質番号5番は製パン性に与える影響が大きく、遺伝子型の5番を作るための遺伝子型(D1d型)ではグルテン同士の絡み合いが強くなるため、生地は強い粘弾性を持つようになります。

グルテンの強い弾力性は、グルテン分子をひもに例えて、これらの絡み合いで説明されることがあるよ。
これらのグルテン分子のうち、とくに重要とされている分子が1983年にPayneらによって明らかになったんだ(右上の図:高分子量のグルテン分子を分離して表示した図)。そのグルテン分子に付けられた番号が5番(緑字)。5番の分子はグルテンを強く絡ませるためのSH基(ノリしろのような部分)を3つ持っていて、グルテン分子同士を三次元的に強く絡ませることができる。その証拠に、試験的に栽培された品種で、遺伝子を持たない品種(Glu-D1dなし)と比べて、持つ品種( Glu-D1dあり)は弾力性の強い生地になるため、パンは大きく膨らむんだ(右下写真)。
近年のパン中華麺用小麦の品種改良では、この遺伝子を持つ品種が優先的に選抜されてきたんだ。その結果、最近登場したパン中華麺用新品種は、従来の品種よりも飛躍的に製パン性が高くなっているということなんだよ。

情報提供:池田達哉(農研機構西日本農業研究センター)

蛋白質含量やグルテン分子の強さを弾力性と伸展性で表すと、パン用国産小麦品種は図のような配置になります。

硬質性、軟質性の遺伝子型によって、無糖生地の発酵特性や直焼きパンの風味が変わることを知っておこう!

  • 製パンには硬質小麦が適しています。
    理由は製粉時に適度に澱粉に傷が入るためです。これを損傷澱粉(前出①)と呼びます。

損傷澱粉は無糖生地の発酵の継続に寄与します(上の図は無糖中種生地のガス発生の履歴を示したものです)。そして、それぞれの小麦粉で同じ製パン条件にてフランスパンを作ると、写真のように焼き色が変化します。焼き色は香りの強さに関係し、色が濃いほど香りが強くなります。
※中種生地とは、製パンに使用する一部の小麦粉に水・パン酵母など配合して発酵させた生地のことをいい、この工程を経て残りの原料を混ぜ合わせて製パンする方法を「中種法」といいます。

国産小麦を使った食品でよく使われる「モチモチ」という食感は、澱粉の特徴からも説明することができます。それは澱粉自体の構造がモチ性を与えるアミロペクチンの比率が多いことが一因です。また、ワキシ遺伝子(Wx-A1やWx-B1など)は、澱粉にうるち性を与える遺伝子です。これらが変異すると(欠損型や二重欠損型など)、ウルチ性が弱まるため、粘りやモチ感が高まります。図の2行目の品種群は日本でもっとも多く生産されている品種群です。

澱粉のアミロース/アミロペクチン比率の違いによって、パンの食感が異なるよ。

澱粉の構造にはブドウ糖が直鎖的につながったアミロースと、分岐しているアミロペクチンの2種類があります。アミロースはウルチ的な特徴を与え、アミロペクチンはモチ的な特徴を与えます。したがって、これらの比率によって加水して加熱した時の澱粉の柔らかさや粘り方が変化し、パンの食感や味わいに影響を与えます。

03それぞれの品種には独自の特性と用途がある

パン作りをするために小麦粉を選択する際は、パン生地の硬さ、グルテンの強さ、食感、色の具合(灰分含量)など、自分の作りたいパンを考えて小麦粉を選びます。これらの特性は品種特性だけではなく、製粉会社が提示している蛋白含量や灰分含量も知ることが大切です。

蛋白質含量やグルテン物性による生地物性の特徴、製粉によって得られる小麦粉の特徴、アミロース含量の違いによるパンの特徴など、加工適性(主用途)について、表にまとめました。
例え食パンに向いている品種の「春よ恋」であったとしても、蛋白質含量が少なかったり、灰分含量が高すぎる場合は、食パンよりもむしろフランスパンの方が適しているということになります。

04いま注目するパン用国産小麦とは

05まとめ:国産小麦のこれからと私たちの向き合い方

国産小麦の利用拡大に向けて、私たちが取り組んでいかなければならない問題は多々あります。そのなかで、主な課題についてご説明します。

外国産小麦について

外国産小麦の製粉会社売り渡し価格に乗せられたマークアップ(関税)が、小麦生産農家への補助金に回っているという現状もあり、外国産/国内産のバランスの良い利用拡大が必要と考えます。 (令和4年3月9日農林水産省 農産局 農産政策部・貿易業務課資料よる)

一般的に輸入する際にかかる関税とは異なり、麦は国家貿易によって輸入し、国(農林水産省)が製粉企業などに売り渡す際に徴収するのがマークアップ(輸入差益)といいます。徴収したマークアップは、国産小麦の消費振興や輸入麦の売買を行うために必要な政府の管理経費のみに充当されます。

そういったことを含め、国産小麦の需要拡大はもちろん、外国産麦に関しても、国産小麦とのバランスを程よく取りながら拡大していくことが必要となります。

麦の備蓄について

温暖化などによる、その年ごとの栽培環境の変化に伴う収穫量の変動によって供給量が変動するため、新麦切り替えを大事にするより、むしろ安定供給のためには備蓄についても理解が必要と考えます。

現在、ロシアやウクライナ情勢をはじめとした国際情勢の悪化により、輸入依存度の高い麦など安定供給に関するニーズが高まっています。そういったことから豊作時に一定数量を保管し、不作の時に供給が可能となるストックセンターの整備を政府が支援しています。

多品種に起因する供給困難について

多品種少量生産により、品種単位の生産数量が少ない品種では、安定供給(品質と定期的な製粉による小麦粉供給)が困難になっています。品種が多様過ぎることに起因するもので、対策を要すると考えています。

輸入小麦は輸出時に輸入国の基準に合致するよう輸出港で複数の品種がブレンドされた形でタンカーに積み込まれます。これに対して、日本では国産小麦の流通は品種ごとに行われます。つまり品種ごと、栽培地域ごとに品質が少しずつ異なり、品質の安定性が課題となってます。

製粉工場では自動化と合理化が進んでおり、1日に100トン以上も挽砕することができます。また、品質を安定させるためには小麦粉のエージング(保管期間)を一定にする必要があり、定期的な製粉が必要になります。例えば月に1回程度の頻度で半日かけて製粉したと仮定した場合、1品種で年間少なくとも600トン以上が必要ということとなります。これに適応できる品種をあげるならば、パン用小麦の生産数量16位の「さちかおり」程度の数量が必要で、「さちかおり」は佐賀県だけで栽培されています。もしも「さちかおり」が製粉会社2社以上で買い入れて製粉された場合は、定期的な製粉ができないこともあり、原料ではなく小麦粉の管理面で品質のばらつきが生じるということとなります。

品種改良のための支援

パン用小麦としての蛋白質含量向上のため、生産農家への施肥という投資を徹底すべきと考えています。追肥重点型施肥によって、穂粒、千粒量が増え、収量も増加しています。

施肥は農家にとっての労働であり、肥料の購入は投資ということになります。例え施肥したとしても、収穫時に雨が降ったりすると、小麦の品質低下により売り渡し価格が低下することになります。要するに投資が回収できないという訳です。従って、農家への補助金である畑作交付金の硬質小麦栽培時の加算支払いは、パン用小麦の増産に貢献するものですが、施肥に対する投資としても考えて欲しいと願っています。

カビ毒混入原料の検査実施へ

個人契約栽培による無農薬栽培と、カビ毒防除農薬不使用による発生時の無検査、それに伴う基準値以上のカビ毒混入原料の無検査流通には課題があると考えます。(農水省 食品のかび毒に関する情報より)

赤カビ毒汚染の程度は外観では判断できないため、理化学検査で把握することが不可欠です。各産地においてカビ毒検査のデータを蓄積して、当該年のカビ毒低減のための対策が十分かどうかを、過去の結果や農林水産省の調査結果と照らし合わせて評価し、営農指導に役立てて行くべきです。

古い品種から新しい品種への更新に理解を

日本では20年以上も栽培され続けられている品種があります。例えば「春よ恋」「キタノカオリ」「ミナミノカオリ」などがあり、これらは市場でも人気の品種です。

しかし、生産現場では昨今の気候温暖化や、土壌伝染病の拡大により、収量性や品質の低下が問題となっています。
このままでは、農家の生産意欲も下がってきます。

海外では、これらの抵抗性を高めた品種の開発が行われ、少しづつ品種の改廃が行われています。
輸入小麦においては5年から10年でほとんどの品種は新品種に切り替わります。

国産小麦の存続と今後の普及拡大のためには、知名度の高い品種名(ブランド価値)を維持した形で、抵抗性高い新品種にごっそりと入れ替える時期がきているのでは?と思っています。

国産小麦や、小麦を取り巻く環境について、原田先生にご説明いただきました。
私たちの生活で身近に接する国産小麦。その国産小麦を使ったパンをこれからも安定的に食べるために、消費者自身も小麦の現状を知って、正しく理解することは大切です。
みなさんにこれからも、美味しくパンを食べてもらいたいと思っています。

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